2012年衆議院選挙 マニフェスト評価(自民党・教育)

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■形式要件についての評価(12点/40点)  

初等・中等教育
 理念・目的は明確である。しかし、教育の「危機」の内実が印象にとどまるため、その課題になぜ取り組みたいかは、不明瞭である。
 個別政策では、子育て支援における幼児教育の無償化、入試改革における達成度テスト、教育委員会制度改革における教育長の常勤化、いじめ防止対策基本法の成立、教科書検定における近隣諸国条項の見直しについて、明確な目標が設定されている。しかし、「平成の学制大改革」の内容、「教育を受ける権利」の侵害に対して国が果たす責任の内容、世界的リーダー養成を支える「教師インターンシップ」の内容は不明瞭である。
 達成時期については、いずれの個別政策とも記載がない。
 財源の裏付けについては、いずれの個別政策とも記載がない。
 目標実現のための工程・政策手段について、「教育再生」全体では、実行スケジュールや責任体制の記述がないため、不明瞭である。ただし、個別政策のレベルでは、いじめ対策について、防止対策基本法の成立、対策に取り組む自治体の支援、教育行政における責任体制の是正など、体系性がみられる。

高等教育
 自民党は、重点政策の2番目に「教育を取り戻す」というタイトルもと、教育政策を取り上げており、教育を重視していることが窺える。しかし、評価の視点に示したような、我が国の人材と教育水準にかかるビジョンは示されていない。
 こうしたビジョンを示さぬままに、大学進学の機会は万人に与えられるべきものという考え方を前提条件にして、多種多様な政策、施策を示しているようにみえる。
 たとえば、「大学力」は国力そのものであり、質・量ともに世界トップレベルになるよう大学強化に取り組むことや、9月入学の促進とギャップタームの活用を重点政策として掲げている。
 さらに、政権公約J-ファイル2012には、多数の施策案が記されている。まず、大学ビックバンという名のもと、大学改革を図ることが記されている。すなわち、成果が認められない大学の廃止、トップレベルの大学を特区化すること、大学の質保証を義務化し、評価に基づき重点配分を行うとしているが、大学の能力、成果に基づき差別化を図るということである。また、地方大学はコミュニティカレッジ化し、専門学校や専門高校の高い実績を踏まえ、その地位を向上させるとしている。このように、全国に800以上存在する大学に加え、専門学校や専門高校を加え、その役割や機能を明確化しながら、改革を進めようというのである。
 また、国立大学と私立大学の受益者負担(授業料)の格差を是正するとしている。
 国立大学法人については、運営費交付金が大幅に削られてきたことで困難が生じたことに鑑み、基礎的経費を安定的に確保するとしている。
 大学院教育については、産業界のニーズへの対応や社会人教育を視野に、強化するとしている。また、大学院の研究機能については、世界水準の大学院の厚みを増すために重点的な支援を行うとしている。 若手研究者育成については、博士課程学生の入学料の免除、給付型の奨学金を創設し、任期付きの不安定な身分ではなく、任期のないポストを増やし、就職先については大学のみならず、産業界など多様化をはかるとしている。また、学問分野別に細分化された学協会の改革を行うとしている。
 高等教育の国際化についても示している。留学生については、福田政権時に掲げた30万人計画(当面は20万人を目標)を促進するための、大学からの情報発信の強化、生活支援や就職支援の拡充を挙げている。また、日本人学生の内向き傾向を打開するために、高校生を含む学生の留学機会の拡大をはかるとしている。また、海外から優れた研究者を招聘し、共同研究のための受入体制の整備、奨学金の拡充をはかるとしている。

 以上、高等教育に関する民主党の政策案である。我が国の人材像についてビジョンは示されていないが、従来になく、多くの政策案が示されており、結果、先に掲げた第2から第6の評価の視点は何らかのかたちでカバーされている。しかしながら、達成時期や財源は示されていない。他方、個別施策については具体的な内容も多く、達成方法や手段を見出せるものもあった。

 

 

■実質要件についての評価(25点/30点)

初等・中等教育
 マニフェストの体系性、課題抽出の妥当性について、まず、現代日本が抱える子育て支援、学力の維持・向上、子どもの安全保障に取り組む姿勢が、「教育再生」の理念及び個別政策に示されている点が評価できる。しかし、個別政策の課題に挙げられている6・3・3・4制の見直しについては、多様な選択を可能とするべく抽出されており、「教育再生」が示す学力、規範意識、歴史文化の尊重のいずれの理念に対応する課題であるのか、不明瞭である。同様に、子育て支援の課題もまた、個別政策それ自体は具体的であるが、上位の理念との関連が見えない。また先に述べたように、日教組の影響は、個別政策に対する障害としては妥当であるとしても、政策全体にかかる障害として強調する記述については、妥当性が低いと判断する。
 課題解決の妥当性について、子育て支援のための幼児教育の無償化、大学入試改革における達成度テストの創設、いじめ対策への体系的な対応、及び教科書における近隣諸国条項の見直しは、「教育再生」の理念を実現するうえで、妥当な解決手法として評価できる。一方、多様な選択を可能とするべく掲げられた6・3・3・4制の見直しであるが、具体的な内容として挙げられた複線型の教育体系は、将来の職業選択に応じた早期の教育ルートの分岐を促す制度である。そのため、各教育ルート間の移動が確保されない限りは「多様な選択」を保証するものとはなりえない。また「世界トップレベルの学力」を保証する制度としても、早期選抜によるエリート養成を進める上では適合する手法であるが、全体としての学力の維持・向上するか否かについては、妥当性に疑問が残る。また、無責任な教育行政システムの是正として、首長任命の教育長を常勤化するとの政策案は、「教育を受ける権利」の侵害に対する国の責任を強調する政策案と、いかなる関係にあるのか。地方の責任と国の責任は、必ずしも対置して捉えるべきものではないものの、両者の責任の範囲が不明瞭である以上、政策実行の際の混乱が予想される。最後に、「教師インターンシップ」の導入について、「力ある教師の養成」に資する政策としては妥当であるとしても、上位の目的である世界的リーダーの養成との間に関係は判然としない。
 政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任については、初中等教育に関わる政策において、ほとんど明記されていない。ただし、いじめ対策については、先に述べた通り、防止対策基本法の成立、責任ある教育長の常勤化、対策を進める自治体の支援など、政策実行の体制が具体的に示されている点が評価できる。地方の責任と国の責任の範囲が不明瞭であるとの課題も含め、評価した。

高等教育
 体系性については、先に挙げた理念を挙げぬまま、大学進学率をさらに上げることを前提に種々の施策を示している。「政策パンフレット」では、世界トップレベルの大学とともに9月入学制度の促進が示されているが、大学セクターの現状と課題に鑑みれば、9月入学を最重要課題とする必要性は低い。そもそも、9月入学制度導入を最初に謳ったのは東京大学だが、就職問題などを解決できず、中途半端な対応に留まっていることがどこまで認識されているのかは疑問である。
 政権公約J-ファイル2012に掲げられた、大学ビックバンは、大学の特徴、役割に応じた機能分化が求められているという課題に対応するもので、ひとつの案として評価できる。しかし、憲法23条に定められた学問の自由、それを根拠にした大学の自治ゆえに、大学改革が遅々として進まない現実をどう認識しているのかは定かでなく、その問題をどう克服すべきなのか、道筋は示されていない。
 また、大学評価に基づく重点配分を進めるとしている。しかし、競争的資金を含めれば、既に東大、京大など、一部の大学への重点配分、傾斜配分はなされているのであり、こうした事実がどこまで認識されているのかは疑問である。
 また、国立大学法人への運営費交付金を安定化させるとあるが、1兆円を超える国立大学関連予算をさらに増やすことができるのか、その実現性に疑問が抱かれる。博士課程を終えた若手研究者が容易に職を得らないという、所謂ポスドクの問題の対応策として、任期制限のない安定したポストの確保が挙げられている。しかし、大学院重点化政策によって急増した大学院定員数がポスドク問題の原因になっていることに鑑みれば、出口対策だけではなく、入り口の問題から着手しなければならない。公約をみる限り、こうした問題を踏まえているのか定かではない。また、給付型奨学金制度は既に存在しているがこの点をどう認識しているのか。さらに、貸与型奨学金の返済率の低さや奨学金が適正に使われていない問題がどこまで認識されているのか疑問である。
 国立大学と私立大学の授業料の格差についても、既に、国立大学には授業料を任意で負担できるように制度が施されている。にもかかわらず、国立大学が授業料を引き上げていないという現状に鑑みれば、単に格差是正を掲げるだけでは容易に実現しない。
 日本人学生の留学が急減している、所謂、内向き志向の問題に対して、短期海外派遣や高校生の海外派遣などを対応策として挙げている。しかし、民主党政権下ではじめられた短期派遣(お試し留学)が、長期海外派遣や留学につながっていない事実をどこまで踏まえているのか疑問である。また、学生が留学に消極的な最大の理由は、就職問題であるが、その点について対応策が示されていない。
 以上、自民党は高等教育が抱える多様な課題に言及はしているももの、課題認識の仕方は甘く、適切とは言い難い。なぜならば、自民党が掲げている案は、既に、何らかの施策が講じられているものばかりであり、それがなぜ、効果を奏しないのかの理由を明確にした上で、施策を示していないからである。
 また、これらの内容を実現するためには相当額の予算の充当が必要である。現在、社会保障予算に次いで、多額の予算額を占めているのが文教予算である。これ以上の財源確保が可能なのか疑問が抱かれる。また、質の伴わない大学の退場を謳っているが、多数の学校法人が、自民党議員の支持母体となっていることに鑑みれば、総論賛成・各論反対に陥ってしまうのではないかと懸念される。以上から、実行体制や実現可能性に疑問が抱かれる。

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