2012年衆議院選挙 マニフェスト評価(民主党・財政再建)

  hyouka_2.jpg

■形式要件についての評価(24点/40点)  

 民主党のマニフェストでは、「税財政の規律を守る」と題して、①「租特透明化法」に基づき、役割を終えた租税特別措置などの廃止、②2013年税制改正において所得税・相続税を改正する、③男女共同参画社会に資する中立的な税制の実現に取り組む、④2015年度にプライマリー・バランスの赤字を2010年度比半減、2020年度まで に黒字化するとの財政健全化目標維持の4点を掲げている。
 政権として掲げてきたマクロの財政健全化目標をしっかりと設定しているが、個別歳出分野ごとの目標は、「国家公務員総人件費は2割削減目標を堅持する」とある以外は、存在しない。ただ、財政健全化目標の達成時期は明示されているが、公務員総人件費については時期の明示がなく、財政再建と連動しているとは読み取れない。
 税制改革について、消費税率引き上げ時期の明示、および「2013年度税制改革において所得税・相続税の税制改革を行う」と、時期の明示がある点は一定の評価ができる。財源の裏付けについては、「2016年度末までに土地や株式など5000億円以上の国有資産を売却する」との明記がある以外は、ほとんど具体的記述がない。
 財政健全化を実現するための工程については具体的な記述がないため、現行の3年間の歳出総額を定める「財政運営戦略」に則るものと解釈されるが、明確に示されているわけではない。
政策手段については、①所得・相続税の改正、②消費税率の引き上げ、③自動車取得税・自動車重量税の抜本的見直しなどの税制改革を明記している。また、歳出削減については、社会保障の給付の重点化を掲げており、その具体例として、「適切に生活保護の認定を行う」「電子レセプト点検の強化や後発医薬品使用の促進」を挙げている。
 また「身を切る改革」として、「次の4年間もムダづかいの根絶に取り組む」としており、具体的には「事業仕訳を発展させた「行政事業レビュー」を法制化し、毎年度政府の全府省で実施する」「予算編成プロセスの公開化を進める」、「入札制度の不断の改革」、「特別会計、独立行政法人改革をすぐに実現する」、「2016年度末までに土地や株式など5000億円以上の国有資産を売却する」「行政改革実行法を制定し、国家公務員の天下りを厳格に監視する」「国家公務員総人件費は2割削減目標を堅持する」など複数の具体策を示しており、一定の評価ができる。

 

 

■実質要件についての評価(22点/30点)

 民主党マニフェストにおける財政健全化目標は、現在の政府目標と同じだが、足下の景気後退の事実を深刻に受け止めるならば、目標の再設定や追加の取り組みの検討が必要となるが、そうした認識は乏しく、言及がない。
 また、2015年までの大きな増収要因として期待される消費税率の2段階にわたる引き上げの税収は、「社会保障に全額充当する」としているものの、社会保障の充実に回る部分は1%であり、むしろ財政健全化を強く意識した内容となっている。
 2013年度に所得・相続税の改正も、「税制の所得再配分機能を高める」ためとしており、当面は増税となる。ただし、2015年度以降、膨張する社会保障の財源をどのように確保するのかについては言及がなく、プライマリー・バランス黒字化への道筋は明確ではない。
 他方、歳出削減については、社会保障給付の重点化を掲げているものの、社会保障の効率化の意識は乏しい。行政の無駄の削減について多くのメニューを掲げていること自体は評価されるが、3年間の民主党政権の実績としてマニフェストに記載されている金額は、事業仕分けによるものが1兆3207億円、独立行政法人向け財政支出の削減4486億円、公益法人向け財政支出削減966億円、独立行政法人からの国庫返納額1兆3413億円と合計で3兆2072億円に止まっている。こうした点を考えると、無駄の削減に向けた努力と意欲は評価できるものの、それだけでは、財政健全化を実現することは難しいといえる。
 財政健全化や歳出コントロールの仕組みについては、何ら言及がないため、事実上、現行の政府の「財政運営戦略」に則っていると解釈される。ただ、その改善の必要性に対する意識はない。歳出管理に実効性を持たせるには、当初予算ベースの管理に止まらず、補正予算の執行ルールや決算ベースの歳出まで縛る法的拘束力の強いスキームが必要だが、そうした認識は全く示されていない。
 以上から、民主党マニフェストには財政健全化に向けた政策の体系性は見いだせず、道筋が描けているわけでもない。
 課題解決のためには、税制改革、歳出抑制・削減の双方が必要であるが、個別の政策の羅列に近いイメージが強く、政策が整合性を持って説明されておらず、その実効性について高く評価することはできない。ただし、2009年マニフェストにあったバラマキ政策は一部を除いて陰を潜めており、税制改革による税収増や社会保障給付の重点化に触れている点は、決して十分ではないが、方向としては正しいといえる。また課題認識についても甘いが、ただ無駄の削減の必要性を強く認識している点は一定の評価が可能である。

 もっとも、現行の歳出管理システムの改善意欲の乏しさなど、財政健全化に向けた新しい制度改革の仕組みが示されていないことは減点対象となる。

マニフェスト評価・財政再建の一覧に戻る

 

言論NPOについて

日本のメディアや言論のあり方に疑問を感じた多くの有識者が、日本の主要課題に対して建設的な議論や対案を提案できる新しい非営利のメディア、言論の舞台をつくろうと活動を始めた認定NPO法人です。
⇒詳細はこちら

▼参加したい方はこちら


▼言論NPOのツイートはこちら

▼お問い合わせはこちら

候補者アンケート「あなたは政治家として何を実現しますか」結果公表

2012年衆議院選挙 立候補者アンケート

現在、政党政治への不信感が募り、有権者がどの政党を選べばよいのか判断できなくなっています。そうした中で、候補者の皆様がどのような課題認識を持ち、いかなる政策に取り組もうとしているのか。1500人の立候補者全員にアンケートを送付し、789名の方からご回答いただきました。その結果を、各選挙区別、比例別(比例単立候補者)に公開いたします。下記の日本地図から、ご自身の選挙区を選択してください。

⇒実施したアンケートはこちら

  北海道
 
        青森  
      秋田 岩手
      山形 宮城
石川 富山 新潟 福島
長崎 佐賀 福岡   山口 島根 鳥取 兵庫 京都 滋賀 福井 長野 群馬 栃木 茨城  
  熊本 大分   広島 岡山 大阪 奈良 岐阜 山梨 埼玉 千葉
  鹿児島 宮崎           和歌山 三重 愛知 静岡 神奈川 東京
          愛媛 香川
沖縄         高知 徳島



比例区のアンケート結果はこちら

100706_00.jpg北海道ブロック / 東北ブロック / 北関東ブロック
南関東ブロック / 東京ブロック / 北陸信越ブロック
東海ブロック / 近畿ブロック / 中国ブロック
四国ブロック / 九州ブロック