初等・中等教育
理念・目的は明確である。しかし、教育の「危機」の内実が印象にとどまるため、その課題になぜ取り組みたいかは、不明瞭である。
個別政策では、子育て支援における幼児教育の無償化、入試改革における達成度テスト、教育委員会制度改革における教育長の常勤化、いじめ防止対策基本法の成立、教科書検定における近隣諸国条項の見直しについて、明確な目標が設定されている。しかし、「平成の学制大改革」の内容、「教育を受ける権利」の侵害に対して国が果たす責任の内容、世界的リーダー養成を支える「教師インターンシップ」の内容は不明瞭である。
達成時期については、いずれの個別政策とも記載がない。
財源の裏付けについては、いずれの個別政策とも記載がない。
目標実現のための工程・政策手段について、「教育再生」全体では、実行スケジュールや責任体制の記述がないため、不明瞭である。ただし、個別政策のレベルでは、いじめ対策について、防止対策基本法の成立、対策に取り組む自治体の支援、教育行政における責任体制の是正など、体系性がみられる。
高等教育
自民党は、重点政策の2番目に「教育を取り戻す」というタイトルもと、教育政策を取り上げており、教育を重視していることが窺える。しかし、評価の視点に示したような、我が国の人材と教育水準にかかるビジョンは示されていない。
こうしたビジョンを示さぬままに、大学進学の機会は万人に与えられるべきものという考え方を前提条件にして、多種多様な政策、施策を示しているようにみえる。
たとえば、「大学力」は国力そのものであり、質・量ともに世界トップレベルになるよう大学強化に取り組むことや、9月入学の促進とギャップタームの活用を重点政策として掲げている。
さらに、政権公約J-ファイル2012には、多数の施策案が記されている。まず、大学ビックバンという名のもと、大学改革を図ることが記されている。すなわち、成果が認められない大学の廃止、トップレベルの大学を特区化すること、大学の質保証を義務化し、評価に基づき重点配分を行うとしているが、大学の能力、成果に基づき差別化を図るということである。また、地方大学はコミュニティカレッジ化し、専門学校や専門高校の高い実績を踏まえ、その地位を向上させるとしている。このように、全国に800以上存在する大学に加え、専門学校や専門高校を加え、その役割や機能を明確化しながら、改革を進めようというのである。
また、国立大学と私立大学の受益者負担(授業料)の格差を是正するとしている。
国立大学法人については、運営費交付金が大幅に削られてきたことで困難が生じたことに鑑み、基礎的経費を安定的に確保するとしている。
大学院教育については、産業界のニーズへの対応や社会人教育を視野に、強化するとしている。また、大学院の研究機能については、世界水準の大学院の厚みを増すために重点的な支援を行うとしている。 若手研究者育成については、博士課程学生の入学料の免除、給付型の奨学金を創設し、任期付きの不安定な身分ではなく、任期のないポストを増やし、就職先については大学のみならず、産業界など多様化をはかるとしている。また、学問分野別に細分化された学協会の改革を行うとしている。
高等教育の国際化についても示している。留学生については、福田政権時に掲げた30万人計画(当面は20万人を目標)を促進するための、大学からの情報発信の強化、生活支援や就職支援の拡充を挙げている。また、日本人学生の内向き傾向を打開するために、高校生を含む学生の留学機会の拡大をはかるとしている。また、海外から優れた研究者を招聘し、共同研究のための受入体制の整備、奨学金の拡充をはかるとしている。
以上、高等教育に関する民主党の政策案である。我が国の人材像についてビジョンは示されていないが、従来になく、多くの政策案が示されており、結果、先に掲げた第2から第6の評価の視点は何らかのかたちでカバーされている。しかしながら、達成時期や財源は示されていない。他方、個別施策については具体的な内容も多く、達成方法や手段を見出せるものもあった。 |