2012年衆議院選挙 マニフェスト評価(民主党・社会保障)

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■形式要件についての評価(20点/40点)  

マニフェストのポイント
①社会保障・税一体改革のスキームのもとでの、子育て支援、医療・介護、年金各施策。具体的には、保育所利用者増、国民健康保険料軽減、年金受給資格期間短縮、低年金者への給付金支給など。 
②公的年金一元化、最低保障年金創設を中心とする年金制度改革案は、社会保障制度改革国民会議の議論を経た上で実現をめざす。
③後期高齢者医療制度廃止、都道府県による高齢者医療の財政運営実施は、社会保障制度改革国民会議の議論を経た上で実現をめざす。

 今回の民主党マニフェストは、実現がほぼ視野に入っているものと、実現の見通しが立っていないものとのいわば「同居」が最大の特徴である。
 これは、菅政権から野田政権に連なる社会保障・税一体改革を反映していると考えられる。社会保障・税一体改革では、「社会保障改革」と銘打たれているものの、実際は、消費税率の引き上げが主たる目的であり、民主党オリジナルの社会保障看板政策(年金一元化、後期高齢者医療制度廃止、歳入庁創設など)の議論が深められることはなかった。
 その代わり、消費税率引き上げという鞭をふるうための飴の意味も込め、現行社会保障制度のもとで、消費税率1%分、子ども・子育て分野をはじめ社会保障の充実がセットされることとなったといえる。他方、民主党オリジナルの政策は、検討課題へと棚上げされる形となった。
 その消費税率1%分を使った充実が、マニフェストのポイントの①にも掲げた、各項目である。これらは、消費税率引き上げ(法案成立済み)と同時に実施されていくものであり、消費税率の引き上げが頓挫することなどがない限り、実現がほぼ見込まれるものである。形式的な要件はほぼ満たしているといえよう。
 他方、民主党オリジナルの政策が、ポイントの②と③であり、これらは実現の目途が全くみえていない。2012年6月の民・自・公3党合意を踏まえ、11月に設けられた社会保障制度改革国民会議での議論を経た上で実現を目指すとマニフェストには書かれているものの、同会議は、②と③にイエスというともノーというとも分からない。
 そもそも、民主党政権発足後、2009年マニフェスト時点では、理念レベルにとどまっていた②と③の具体的な議論が進捗した様子もみられない。国民会議の議論が終了すれば、すぐに実現可能な案を民主党が持っている訳でもないと考えられる。

 次に、医療分野であるが、増大する社会保障費に対して医療保険制度全体の安定的な運営のため、保険者間の負担感の公平、国民健康保険の都道府県単位化など医療保険の一元的運用を進めるとしており、形式的には目標を掲げている。しかし、具体的な工程や道筋は描けていない。一方で、医師数や看護師数増についても引き続き取り組み、地域間の偏在についても適切な整備を進める旨、約束している。しかし、いつまでにどのような工程で行うかは記載されていない。

 

 

■実質要件についての評価(17点/30点)

 では、マニフェスト提示されている政策は、社会保障制度が抱える課題を捉えた上で、適切な解を国民に示しているだろうか。60点の配点を、高齢化対応30点、制度の現代化30点とする。いかなる社会保障制度を構築しようと、高齢化が進むなかで持続可能であることが大前提である。
 まず、高齢化対応に関し、マニフェストに具体的な記述は見当たらない。よって、配点はできない。次に、制度の現代化である。2つに分けて評価する。1つめは、マニフェストのポイント①である。保育所利用者増、国民健康保険料軽減などは積極的に評価できる。100万人規模とも推計される潜在的待機児童解消が急がれること、市町村国保の保険料負担が被用者健保に比べ、相対的に高い傾向にあることなどを考えると、妥当な政策である。
 他方、①のなかでも、低年金者への給付金支給には疑問が残り、評価しにくい。これは、低年金者に対し、月5,000円を基本額として加算金を配布する仕組みであるが、以下の理由から評価しにくい。(a)現在、マクロ経済スライドも発動されず、既に過剰給付の状況にあることから、そうした状況の是正が先であること (b)公平性に配慮した結果、定率加算の仕組みとなったため、貧困対策としては効率的ではなくなったこと (c)所要財源0.6兆円と試算されており、財政健全化と逆行すること。
もう1つは②と③である。まず、②は、現行年金制度のもとで、年金制度が抱える諸課題に応えることには限界があると判断されることなどを踏まえると、新年金制度創設という目標、最低保障年金というコンセプトなどは積極的に評価される。例えば、現行基礎年金は、仮にマクロ経済スライドが発動されれば、満額で月4.8万円程度(現在価値)まで給付水準が低下していくと推計される。これでは、もはや「基礎」の名に国民が期待する年金制度足りえなくなる。最低保障年金というコンセプトは、こうした基礎年金の実態へのアンチテーゼとなっているといえる。
 次に、後期高齢者医療制度の廃止である。2009年マニフェストでは、2008年4月にスタートした後期高齢者医療制度は、高齢者に対する差別と断じ、その廃止を訴えていた。今回のマニフェストでも「廃止」とはなっているものの、ややトーンダウンしている。マニフェストの記述は「高齢者医療は年齢で差別しない制度に見直し」という表現になり、現行制度が差別であるという表現ではなくなっている。
 依然として「廃止」となっていることは大きなマイナスであるものの、こうしたトーンダウンは好ましい変化である。そもそも、後期高齢者医療制度の財源は、9割超が国と地方の一般会計および現役世代が加入する健康保険からの支援金で賄われており、決して、高齢者差別ではないためである。むしろ、高齢化が進むなかで、現役世代が支え続けていけるのかといった観点から捉えられるべき問題である。
 形式要件で見た通り、医療保険制度全体の安定的な運営のため、保険者の負担感の公平性確保、国民健康保険の都道府県単位化など医療保険の一元的運用を進めるとしており、課題の抽出は妥当である。しかし、具体的に何を行うかがわからず、政策実行の体制やガバナンスも不明であって評価は低くならざるを得ない。

 また、医師数や看護師数増についても課題解決に引き続き取り組み、地域の偏在についても適切な整備を進めるとされおり、課題の抽出、解決の方向性は妥当であるが、実現するための体制やガバナンスなどは不明で、評価は低くならざるをえない。

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