2012年衆議院選挙 マニフェスト評価(公明党・教育)

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■形式要件についての評価(13点/40点)  

初等・中等教育
 「安心、そして質の高い教育」への改革は、いじめや暴力問題の解決を目指す政策としては、明確な理念である。ただし、「質」あるいは「教育のための社会」が何を指すかは明らかではない。
 個別政策については、それぞれ明確な目標が設定されている。まず、安心・安全を基本とする学校教育改革に向けた施策として、いじめ対策、不登校対策、通学路の安全対策、学校の耐震化と長寿命化、安全教育の教科化について、それぞれ目的と解決策が簡明に記述されている。教育費負担の軽減についても、幼児教育の無償化、奨学金制度の拡充、全中学校への給食導入と、課題がわかりやすい。質の高い教育の推進については、全体としての目標は曖昧であるものの、特別支援教育における「デイジー教科書」の提示、留学支援における高校生留学支援金等の対処枠の拡大、公立夜間中学校の全都道府県設置など、個別の施策は非常に具体的で評価できる。ただし、教育行政の見直しについては、教育委員会の機能強化、学校裁量の拡大、教員の創意工夫の奨励を目的に挙げているものの、その具体的な内容が不明である。
 達成時期については、いずれの個別政策とも記載がない。
 財源の裏付けについては、いずれの個別政策とも記載がない。
 目標実現のための工程・政策手段について、全体としての実行スケジュールや責任体制に関する記述はない。ただし、個別政策のレベルでは、いじめ対策、不登校対策について、「学校支援地域本部」及び「教育支援センター」の設置、小中学校へのカウンセラー及び児童支援専任教諭の常時配置を示すなど、対策の担い手が明記されている点が評価できる。また、学校施設の耐震化についても、劣化状況調査に基づいた長寿化施策による維持費圧縮が、具体的な提案として提示されている。

高等教育
 公明党は、「安心、そして質の高い教育改革」を掲げているが、主としてその対象は、初等・中等教育の子供をさしているようにみえる。高等教育について、先の評価の第1の視点にかかるような、教育水準にかかる人口構造比のようなビジョンは示されていない。公明党のマニフェストから読み取れるのは、大学教育の質の向上である。
 個別政策の目的としては、給付型奨学金制度の創設、無利子奨学金や変換免除制度などの奨学金制度の拡充、秋入学の推進、障害者の大学進学推進を掲げている。ま
た、大学教育の質の向上を、授業評価を通じてはかるとある。
 国際化については、高校生や大学生の海外留学を促進するために、給付型の留学金制度の拡充をあげている。また、外国人在日留学生については、就職支援や生活支援を充実させるとある。
さらに、低所得者はや弱者を対象にした対応策として、通信教育課程を導入した大学の増設を挙げている。

 公明党の教育政策は、弱者への対応に重きが置かれている。他方で、高等教育全般にかかるビジョンの提示は不十分である。また、個別政策にかかる目的は示されているが、達成時期や財源は示されていない。工程や政策手段については、奨学金などの給付に型より、その他については手段が十分に示されていない。

 

 

■実質要件についての評価(19点/30点)

初等・中等教育
 マニフェストの体系性、課題抽出の妥当性について、まず、現代日本が抱える子どもの安全保障、子育て支援、教育の質の改革に取り組む姿勢が、「安心・安全を基本とする学校教育改革」、「教育費負担の軽減」、「質の高い教育の推進」の三つの目標にそれぞれ見出される。個別政策に示された課題も、子どもの安全保障、子育て支援に関しては、妥当なものであると考えられる。他方、教育の質に関する改革課題として示された、特別支援教育の充実、海外留学の促進、多様な教育機会の充実は、幅広い教育ニーズに応じる取り組みとして評価できるが、公明党の掲げる「質の高い教育」や「教育のための社会」といった理念が、これら多様な教育ニーズへの対応を意味するものであるか否か、明確ではない。また、教育の質の改革の一環として示されている教育行政の見直しも、上位の理念、及び並列する上記の課題との関連が見えない。
 課題解決の妥当性について、まず、いじめ対策、不登校対策、通学路の安全確保、学校施設の耐震化と長寿命化、安全教育の教科化は、それぞれの具体的な対策案を含め、「安心・安全を基本とする学校教育改革」との課題に照らして妥当な解決策であるといえる。また、幼稚園・保育所・認定こども園等の幼児教育の無償化、給付型奨学金の創設や無利子奨学金・返還免除制度の拡充、全中学校への給食導入も、「教育費負担の軽減」に資する解決策である。他方、「質の高い教育の推進」については、個別政策に挙げられた課題に照らしても、妥当な解決案と、疑問の残る解決案の双方を含んでいる。特別支援教育の充実に対応する特別支援教室の設置推進やデイジー教科書の無償供与、海外留学を促進するための高校生留学支援金や給付型留学奨学金の拡大、多様な教育機会の充実に対する公立夜間中学校の全都道府県設置は、いずれも妥当であると考えられる。しかし、いじめや不登校などへの迅速な対応を求めての教育行政の抜本的見直しについては、教育委員会の機能強化、学校裁量の拡大、教員の創意工夫の奨励が具体策として挙げられているものの、特に教育委員会改革の内実が不明瞭であるため、学校問題への迅速な対応を可能にするうえで妥当な政策案であるのか否か、判断が難しい。以上、子どもの安全保障と子育て支援に関わる政策案の妥当性を評価しつつも、教育の質向上に関わる施策について疑問が残る。
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任に関する施策としては、いじめ対策、不登校対策における学校支援地域本部、教育支援センターの設置、および教育行政の抜本的見直しが挙げられる。ただし、教育行政の見直しについては、主に教育委員会の機能強化の内容について不明確である。

高等教育
 高等教育にかかる課題の抽出の仕方は、評価の視点(第2から第6)と照らし合わせると、第3の評価の視点(大学の質の低下)に集中し、第2の国際競争力や他の視点をマニフェストから読み取ることができなかった。
 また、ビジョンが曖昧であることから、個別政策との関係に体系性を見出すことができなかった。
さらに、課題解決の提示という点は以下の点で疑問である。授業評価を通じて大学授業の質向上をめざすとあるが、既に、大半の大学で授業評価が行われていること、にもかかわらず質向上につながっていない事実が認識されていないのではないかと思われる。また、秋入学については、就職の問題を解決しない限り、容易に進まないことについて言及されておらず、課題解決の方法が十分に示されていない。
 通信教育課程の大学への導入を謳っているが、既に通信教育を導入している大学はあるものの、進学率、進級率が低いという事実に鑑みれば、単なる導入では、問題は解決しない。

 また、給付型奨学金、無利子奨学金制度の拡充を謳っている。しかし、公明党の働きかけで奨学金対象者を拡大した結果、財政的に恵まれた家庭の子供も給付対象になっており、また、その使途は、携帯電話や旅行など、およそ勉学と異なる使われ方をしている割合が高いという事実認識がなされていない。財政難の中で、どう財源を確保するのかという問題もある。確かに、勉学意欲が高く、能力の高い学生に対して支援をすることは必要であるが、こうした支援の仕方を公的資金だけでなく、民間の寄付を組み合わせるなどの工夫をしなければ、単なるバラマキと無駄遣いに陥る可能性がある。

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