2012年衆議院選挙 マニフェスト評価(民主党・教育)

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■形式要件についての評価(10.5点/40点)  

初等・中等教育
 理念・目的は明確である。ただし、教育の質の向上については、目的が曖昧で具体性に欠ける。
個別政策では、「社会全体で子どもの育ちを支援する」施策について、新児童手当の給付、保育所定員の増員、放課後児童クラブの整備、幼保連携型認定こども園や小規模保育への給付制度の実施、「子ども家庭省」の設置など、明確な目標が設定されている。特に、3歳未満児の保育所利用者の増加、放課後児童クラブの定員増については、具体的な数値目標が設定されており、高く評価できる。また「子どもたちの命を守り、教育の質を高める」施策では、いじめ防止措置の法制化、通学路の安全点検、学校施設の耐震化、コミュニティスクール(土曜学校含む)の増加、教師の研修充実と修士比率の引き上げ、教職員増と少人数学級の推進について、目標が明確である。しかし、いじめ防止措置と不登校対策が混在している点、子どもの虐待防止策が「社会全体で取り組む」との記述にとどまる点、地方教育行政・教育委員会制度について「見直す」以上の説明がない点は、明瞭さに欠けている。
 達成時期について、3歳未満児の保育所利用者の増加、放課後児童クラブの定員増、「子ども家庭省」の設置検討の3つの施策に記述がある。
 財源について、消費税をすべて社会保障に充てるとの方針が示されている。しかし、子育て支援、医療・介護、年金の各政策への配分割合は不明である。実際に子育て支援の個別施策に十分な財源が確保されるか否かについて、疑問が残る。
 目標実現のための工程・政策手段について、全体としての実行スケジュールや責任体制に関する記述はない。ただし、「社会全体で子どもの育ちを支援する」施策では、責任主体としての「子ども家庭省」の設置検討、及び3歳未満児の保育所利用者の増加、放課後児童クラブの定員増が、具体的な数値目標及び達成時期とともに記述されている。責任体制の検討と具体的なスケジュールの記載を評価した。

高等教育
 教育全般に係る理念は示されておらず、「共に生きる社会」という理念の下に、「子供たちの命を守り、教育の質を高める」という目標が設定され、高等教育機関に係る目標は「新しい競争力は、人と地域」という理念の下に「世界のトップレベルの研究開発の成果を社会に還元する」という内容で示されている。しかし、いずれの項目についても、教育とは直接関連しておらず、何が課題であるかも不明瞭である。
 個別政策については、国立大学などの耐震化の完了、授業料減免や奨学金の拡充、コミュニティスクール(土曜学校含む)の増大、大学等の理系カリキュラム改善やインターンシップを産学官連携での推進、テニュアトラック制の普及等による優秀な若手研究者の支援、研究の中核となる大学の研究力の強化、世界で戦えるリサーチユニバーシティ(研究大学)の増強など、限定的な内容となっている。さらに、これらの目標または項目の関連性は薄く、それぞれをどのようにすれば達成できるのかについての記載はない。
 達成時期、財源の裏付け、達成時期については記載がない。

 目標実現のための工程・政策手段については、「教育」に係る項目がその他の項目の下位概念となっていることとも関連し、どのようなスケジュールや政策を組みわせて展開していくのかの記載がない。

 

 

■実質要件についての評価(15.5点/30点)

初等・中等教育
 マニフェストの体系性、課題抽出の妥当性について、まず、現代日本が抱える子育て支援、子どもの安全保障に取り組む姿勢が、「社会全体で子どもの育ちを支援する」施策と、「子どもたちの命を守り、教育の質を高める」施策に見出される。個別政策としても、育児と仕事の両立支援、待機児童の解消、保護者の就業形態にかかわらない支援の模索、総合的な子ども・子育て支援を担う組織の設置検討は、社会全体での子育て支援を進める上で、妥当な政策課題であると考えられる。また子どもの命を守る上で、いじめや虐待の防止、通学路の安全確保、震災への備えは、妥当な課題であるといえるだろう。しかし、教育の質の向上については、その目的が曖昧であるため、課題として提示されている諸施策との体系性が見えにくい。コミュニティスクール(土曜学校含む)の増加、教員の研修拡充と修士比率の引き上げ、教職員数の増加と少人数学級の推進は、個別政策としては具体的であるものの、これらが貢献する「教育の質」について、それが学力なのか、それとも別の指標によって測られるものなのか、不明瞭である。とりわけ、地方教育行政、教育委員会制度の見直しが個別政策に含まれる妥当性を、上位の理念・目的から読み取ることはできない。
 課題解決の妥当性について、まず子育て支援に関する諸課題への対応として、新児童手当の給付、保育所定員の増員、放課後児童クラブの整備、幼保連携型認定こども園や小規模保育への給付制度の実施、「子ども家庭省」の設置は、いずれも妥当な解決手法であると考えられる。ただし、「子ども家庭省」の設置を省庁の縦割りを排する解決策に位置づける点については疑問が残る。「子ども家庭省」の設置は、あくまで厚生労働省と文部科学省をはじめとする既存省庁に分散した子育て支援に関する責任を総合的に引き受けるための施策である。「子ども家庭省」自体が新たな縦割りの弊に陥らないためには、別個の対策が必要であろう。次に子どもの安全に関する諸課題への対応として、いじめ防止措置の法制化、通学路の点検、学校施設の耐震化は妥当である。一方、いじめ防止措置の法制化が、いじめと不登校の双方の解決案として示されている点に疑問が残る。いじめは不登校の一因に過ぎない。「不登校に苦しむ子どもたちをなくす」ためには、いじめ防止措置の法制化では十分ではないだろう。また、虐待防止措置が具体性を欠く点も、子どもの安全を守る政策としては不十分である。最後に、教育の質を高めるための諸施策については、課題抽出の問題として述べた通り、各施策が何を解決するためのものなのか、明確にする必要があるだろう。また、少子化によって児童生徒数が減る中では、現状の教職員数の維持によって、少人数学級の推進が可能である。そのため、「教職員の数を増やし、少人数学級を着実に推進する」との記述は、他に説明がない限り、説得的ではない。
 政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任に関する施策としては、子育て支援における「子ども家庭省」の設置検討、いじめ対策における防止措置の法制化、地方教育行政における教育委員会制度の見直しが挙げられる。ただし、「子どもたちの命を守り、教育の質を高める」施策に含まれる他の多様な個別政策について、実行体制、ガバナンス、責任は、ほとんど明記されていない。また地方教育行政の見直しの内容も不明確である。子育て支援における責任母体の設置検討を踏まえつつ、総合的に評価した。

高等教育
 高等教育関連の政策については、以下の項目の中に盛り込まれている。
  ①社会保障
  ②経済
 まず、①については、高等教育に係る以下の政策が明示されている。
公立学校施設、国立大学などの耐震化を完了する。私立学校についても早期の完了をめざす。
大学などの授業料減免や奨学金をさらに拡充する。コミュニティスクール(土曜学校含む)をさらに増やす。
 次に、②については、高等教育に係る以下の政策が明示されている。
大学等の理系カリキュラム改善やインターンシップを産学官連携で推進し、またテニュアトラック制(任期付き研究者が審査を経て専任となる制度)の普及等により優秀な若手研究者を支援する。
研究の中核となる大学の研究力を強化し、世界で戦えるリサーチユニバーシティ(研究大学)を増強する。
 世界最先端の研究基盤の整備・共用を推進し、世界の研究者を惹きつける国際的な研究拠点を充実する。
 上記の政策は、前述の評価の視点で取り上げている第1及び第5の項目と多少の関連性は見られる。
 しかしながら、いずれの項目もどのような対応関係にあり、具体的な対応策は示されていない。また、これまで改革の足かせとなっている制度改革(運営費交付金の配分方法、国立大学における専任教員枠の設定等)についての言及がない点を踏まえると、実効性は低いものと思われる。さらに、課題解決の妥当性、政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任については記載はない。また、政権与党時代において、高等教育に関する改革について殆ど着手していない。

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