2012年衆議院選挙 マニフェスト評価(自民党・財政再建)

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■形式要件についての評価(22点/40点)  

 自民党の財政健全化は、重点政策集ではなく公約集に掲載されている。財政健全化目標については、①2015年度に国・地方のプライマリー・バランス赤字の対GDP比を2010年度対比で半減 ②2020年度までに同プライマリー・バランス黒字化目標を堅持 ③国・地方の債務残高対GDP比を2020年代の初めには安定的に引き下げる、と政府が掲げている目標で自民党としても掲げている。
 ただし、それをどう実現するか、では他の政党同様に明確な道筋を描いているわけではない。その他の数値目標としては、「公務員総人件費を国・地方合わせて年間2兆円削減する」との記述が目立つ以外は、数値目標が十分示されていない。「今後5年間の集中財政再建期」に、この公務員総人件費を2兆円削減する、としているが、国だけではなく地方公務員をこの期間にどう削減するのか、説明されているわけではない。消費税率の引き上げ時期は説明しているが、自民党総裁はこの実施の判断で選挙中、「デフレ脱却が前提」などと発言しており、実施がどういう経済条件下で判断されるかに関しては、この政権公約で明示しているわけではない。
 また、財政健全化を実現するために、「民主党政権のバラマキ政策で水膨れした歳出について徹底した削減を行う」「国・地方の公務員人件費の削減、生活保護の見直し」等、さらなる歳出削減が謳われる一方、「成長戦略や事前防災等の分野に資金を重点的に配分することで、経済成長と税収増を目指す」としている。
 しかし、いかなる分野でどの程度の歳出削減を実行するのかは、公務員人件費についての言及があるのみで、全体像やその他の分野での言及がない。また、税制改革や景気回復による税収増をどの程度見込んでいるのかについても言及がない。
 財政健全化のための手段として、「5年を1期とする財政健全化中期計画を策定する」「新たな施策には(中略)恒久的な財源を確保する原則を確立する」「財政健全化責任法と財政再建のための公務員人件費等の歳出の削減に係る緊急措置に関する法律案を早急に成立させる」としている点は評価できるが、「2014年度以降に(中略)成長戦略や事前防災等の分野に資金を重点配分する」点が随所に示されており、これらの整合性が政権公約では伺えない。
 また、公約では国債市場の安定確保のため、財政健全化に向けて節度ある国債発行に努めるとしているが、重点政策や党総裁の相次ぐ発言に見られる日銀への国債引き受け圧力や「国土強靱化計画」との整合性がどのように取られているのかが不透明である。

 

 

■実質要件についての評価(17点/30点)

 「民主党政権のバラマキ政策で水膨れした歳出について徹底した削減を行う」としている点は、財政健全化を実現する上で、歳出コントロールが重要との認識を示している点で妥当だが、具体的な歳出削減項目は公務員人件費の2兆円のみであり、歳出拡大の最大の要因となっている社会保障費の効率化や抑制の必要性を財政健全化の中で一切言及していない。また、財源確保策の一環としての3党合意に基づく消費税率引き上げに関しては、その税収の一部を社会保障以外の成長戦略や事前防災に充てるとも読める記述があり、消費税収の使途を全額社会保障に振り向けるとした3党合意を逸脱するものである。また、低所得者対策として、「食料品等への複数税率の導入を検討する」としている点は、消費税収の減少に直結するものであり、財政健全化の観点からはマイナスとなる。
 財政健全化を実現するために、「5年を1期とする財政健全化中期計画を策定する」「財政健全化責任法」を制定するとしている。だが、こうした計画や法律がどのような形で歳出削減の実効性を担保するのかは不明である。現在、政府が定めている歳出総額(除く国債費)の向こう3年間横ばいといったスキームと比べて、期間を5年間に延ばす一方、具体的な歳出管理スキームについて言及がない点は大きな問題といえる。また、歳出管理に実効性を持たせるには、当初予算ベースの管理に止まらず、補正予算の執行ルールや決算ベースの歳出まで縛る法的拘束力の強いスキームが必要だが、そうした認識は全く示されていない。
 税制改革については、消費税率の引き上げの他、所得税、資産課税、自動車関係諸税、地方税制、たばこ税、環境税など幅広い分野にわたって言及があるものの、どちらかと言えば、減税措置が多く、財政健全化との関連は曖昧である。
 総じて自民党の財政健全化に対する基本認識は、歳出抑制よりも歳出拡大、減税による経済活性化によって税収増を図ることを通じて達成できるという認識であり、財政規律の強化、歳出管理システムの強化、社会保障の膨張抑制という視点が極めて弱く、財政健全化の実行可能性を低下させるものといえよう。

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