次の選挙で問われるエネルギー政策とは/第1部:重要課題のエネルギー・環境問題

第1部:重要課題のエネルギー・環境問題

工藤泰志工藤:こんにちは。言論NPO代表の工藤泰志です。さて、言論NPOは目前に迫った選挙できちんと争点、有権者が考えなければいけない点を、有識者の皆さんに集まっていただいて解説するだけではなく、政党や政治家はその争点で何を有権者に説明しなければいけないのか、ということを浮き彫りにするために6つの政策課題についての議論を連続的に行っています。今日は、私たちの争点に関するアンケートでは「一番重要だ」という指摘が多かった、日本のエネルギーの問題、そして環境の問題です。この問題に関して、3人のゲストに来ていただいて議論をしたいと思います。それではゲストの紹介です。国立環境研究所主任研究員の藤野純一さんです。次に、日本総合研究所調査部主任研究員の藤波匠さんです。そして最後に、日本エネルギー経済研究所研究理事の工藤拓毅さんです。

 まず、一番初めに、私が皆さんに聞かなければならないことは、今の原子力の状況。そしてエネルギーの安定供給、原子力の問題を今後どうするのか、ということに関する政府の取り組みが今の時点でどういうふうになっているのかということで話をしたいと思っております。

 まず工藤さん。今の原子力発電というのはどういう状況になっていて、それはどうしてそういう状況になっているのか、ということを教えていただけますか。


現在の原発の状況は?

工藤拓毅氏工藤(拓):基本的には3.11の後に原子力の設備に対する安全性云々ということで、官邸サイドからそういった安全性に対するしっかりしたチェックが必要だ、ということもあって、象徴的だったのは、浜岡原発に対する働きかけがありました。そして、原子力には定期検査が入りますので、その定期検査に入った原発が止まって、その止まった原発が再稼働するのかしないのかということで、基本的にはこれまで「再稼働しない」ということで推移してきました。ただし、関西電力の大飯原発3・4号機については、夏期の電力安定供給等も含めて、そしてとりあえずの安全性の評価の勘案も含めて、一部再稼働して動いているわけです。それ以外の原発は再稼働していないというのが現状です。

工藤:その再稼働する、再稼働しないということの基準というのはどういうものだったのですか。

工藤(拓):基本的には今回は、ある法的な根拠に基づいて止めているということではありません。あくまでも行政、政府サイドの判断と、それに対する民間電力会社、それから原発の稼働云々に関しては地元自治体の合意といったものも必要です。そういったものを判断するための安全性の評価、これについては、あの事故の後に新たに専門的な規制委員会を立ち上げて、「安全基準を判断しましょう」というプロセスがようやく動き始め、「今後どうしようか」という状況です。

工藤:そして、原発の状況を踏まえて、今後エネルギーをどうしていくのか、ということについて、国民的な討議をするという形があったのですね。私自身はこのテーマで国民的な議論をするというのはなかなか難しいと思っていました。しかし、その一般の議論を踏まえて、政府では「革新的エネルギー・環境戦略」というものを9月に決定し、それをベースにして閣議決定がなされた。ただ、新聞報道その他を見ると、何が決定されたのかよくわからなくて、あいまいになって腰砕けのような状況になっていると思いますが、藤山さんはそのあたりをどう思われますか。

藤波匠氏藤波:国民的議論を受けた手続きについては、私はかなり評価しています。テーマとしてはかなり難しかったのですが、これまでなかった国民的な議論をやってみようじゃないか、というステップを踏んだことについては非常に評価しています。ただ、その結果出てきた内容について、どのように最終的な戦略に盛り込まれたのか、という点については、いま一つはっきりしません。それから、その国民的な議論がだいたい終わった段階で、産業界から大変強い反発が出てきた、核廃棄物の問題なども明らかになってきた、ということで、その国民的議論の結果がどうも見えにくいような状況になっています。その結果として、新聞等の報道なども含めてちょっとわかりにくいということになっているのではないでしょうか。

工藤:藤野さん、原子力委員会と、環境省と経産省にある審議会、これは法的に決められた審議会ですが、藤野さんはそれに入っているのですか。

藤野純一氏藤野:6月の時点で、環境審議会の下に置かれていた2013年以降の小委員会というものがあり、それには入っていたのですが、エネルギー環境会議については基本的には政治主導でやっていて、他は各省庁の担当者が、我々の作った原案を見ながら、組み合わせて作っていったという過程です。


"革新的エネルギー・環境戦略"って何?

工藤:その3つを作って、「革新的エネルギー・環境戦略」を決めたのが9月14日なのですが、これは結果として何を決めたのでしょうか。閣議決定した時も「柔軟に対応する」というふうになって、この内容そのものは参考資料になっているし、中身も何なのかよくわからないですよね。つまり、止めるのか、それとも安全性が確認された原子炉は重要電源として使うというくだりもありましたし。何が決まったのでしょうか。

藤野:まず、大前提としてエネルギー環境会議で29日に3つの選択肢というものを出しました。

工藤:2030年に電源構成として原子力が0、15、20から25でしたか。

藤野:そうですね。それに対して、パブリックコメントが寄せられたり、世論調査が行われたりして、どうも国民の大多数は原子力がいずれの時点でフェードアウトするのを望んでいる、というようなメッセージを受けて、それを実現するのであれば、そのためにはどうすればよいのかということをエネルギー環境会議のメンバーで再度、検討したのがこれの元だと私は認識しています。それで、中身の方なのですが、では、具体的な道筋が示されたのかというと・・・どちらかというと方向性を示したものであると思います。原子力発電所に対して、例えば、40年廃炉を出したり、再稼働するためにはちゃんと安全性を確認してからでないといけない、など。さらには、再生可能エネルギー及び省エネルギーに関して今までにない踏み込みをしていくという方向性を出しています。また、みなさんが気にされているエネルギー安全保障についても一応は言及していて、ある意味全体的には触れているのですが、全体のボリュームが20ページなので、そこのより具体的なことを知りたい人からすると消化不良だったのかもしれないと思います。

工藤:すみません。これは事実として今後の政策を考えるためにはっきりしておかなければいけない。この環境戦略というものが、環境会議のなかで決まり、それが閣議決定になり、閣議決定で出された「革新的エネルギー・環境戦略」は参考資料になっている。そして、状況を見ながら柔軟に対応すると。ということが閣議決定ですよね。ということは、閣議決定では何が決まって、政府としてはこの環境戦略を見て、何が決まったと工藤さん、判断すれば良いでしょう。

工藤(拓):結局、それに基づいてというよりも、その中身を勘案しながら、よく不断の検証という言葉を使っていますけども、しっかりその都度その都度、必要とされる見直しをする。検討していきましょうと、いうことは決まっているんです。だから、その中身に純粋にそって判断するか否かというところで、世の中の考え方がわかれているのだけれども。一方で、行政サイドから見るならば、このような中身に沿って色々個別にものを考えていくということがある程度議論がなされたわけだから、それに乗っ取った議論は残るでしょという見方もあるわけです。

 しかし、それがあの閣議に基づいている議論ですから、今回の選挙をまたいだ時の政権なり構想が変わった時に、今後それに基づきそれをどう動かしていくか、というところで、その手前のところで、クリアにならないところで環境が変わる可能性がある。

工藤:選挙の話はおいて、野田政権としてどこまできたのかという実績のところをきちっと見ていきたいのですが、少なくとも工藤さんはいま仰った認識ですか。つまり、これに関しては「革新的エネルギー・環境戦略」を踏まえて、今後行うという理解ですか。それとも、工藤さんはあくまでも検討材料という・・・

工藤(拓):いや、大事なことはプロセスだと思うんですよ。先ほど国民的議論という言葉が出ましたけど、それのシナリオを、選択肢を出す前のプロセスは相当のステークホルダーが集まって、経産省、もしくは環境省、審議会、委員会、相当数の理解を重ね、様々な事象を検討し、まだ、それがまとまったかどうかわからなかったにせよ、それぞれの意見表明を相当なされたうえで法改正。そこで色々議論されて出されたものについて、今後何を重要視しますかということで、もしかしたら若干の方向性が変わることがあるかもしれませんが、そういう意味では道筋が示されたかというよりは、道筋を考えるだけのコンテンツというのは、イシューというのは当然その中にかなり含まれている。

工藤:政策を考える時に、目標に向かってそれを実現する工程が提起された場合、道筋が決まるというんですよ。ということは、別に今は、道筋は決まっていない。何をして、どのような目標のためにやるかということは決まっていない、という状況ですよね。ただ、議論したことの現在の到達点のベースにした形が官邸に上がりましたと、報告として。その上がった内容についてはもう一度議論したいんですが、政府としては、その上げたものを実現しますとか、どうかという話ではないわけですよね。

工藤(拓):不断の検証に基づいて粛々と色々と議論してくというところで・・・

工藤:終わったんですね。
 藤波さんはどう思ったのですか。これと政府の閣議決定の関係は。

藤波:私は正直よくわからない。一般の国民の方と同じです。プロセス、閣議決定されるものという形で読んでいたら、すっとはしごを外されたのかな、と。これをどういうような扱いにしていくのだろうと思いますね。

工藤:それのほうが僕たちも逆にすっきりするので。藤野さんはどうですか。これはどうしたんですか。


示されていないフェードアウトへの全体像

藤野:それぞれのところに例えば、12ページ目とか見ますと、グリーンエネルギー革命が実現というところで、政府としては年末をめどにグリーン政策大綱を作るとか、そのマイルストーンを示しているのかというところで、道筋というよりは方向性を示したと。省エネをきちんとやる、再エネを徹底的にやると、電力システムをきちんとやる。それで原子力についても基本的にはフェードアウトさせていくのかなと。方向性を示して、そのあとの具体的なところについては、実はまだそれぞれに委ねられているという。

工藤:僕も読んだのですが、2030年代には原発稼働0を可能にするようなあらゆる政策資源を投入するという表現がありましたよね。ということは、これは閣議決定ではなくて、まさに参考資料となった環境戦略になるのですが、少なくともこの戦略で描かれたのは、そういう道筋なんですか。2030年に原発稼働0を可能にするようなあらゆる政策資源を投入すると。これ自体も曖昧なのでしょうか。

藤波:私はこの道筋というのは、比較的かなり妥当な線を踏んだなという印象です。再稼働はするけれども、40年で廃炉、新設はなしという原則、これは民主党がずいぶん前から言っている話なんですけども、これを着実に遂行していくと、2030年くらいには稼働可能な原発というのは、既に半分くらいまで落ちているはずなんですね。2040年には全体の1割くらいまで減っている可能性がある。ですから、その頃には30年代には、基幹エネルギーとしての原発というのは政策通りにいけば、民主党のいうとおりになるということですね。ですから、原発が0というようなことで、ちょっとショッキングに受け取りますけども、実は手堅い流れになっている。

工藤:この環境戦略に書いていることですよね。新設はしない、それから40年で廃炉、というこの二つに関しては位置づけられたので、であれば2030年で15%でしょ? ではなくて? どのくらいなんですか。

藤波:2030年では、現在の半分くらいが減っているはずですけども。

工藤:そうですか。でも、その二つは決まったという理解で良いのですか。

 どこかを見ていたら、安全性を確認された原子炉は重要電源・・・そうか、そのあとに枝野さんが新設でどこか・・・

工藤(拓):大間、島根三号ですね。それは新設ではない。
 ここでいっている新設ではない。既に計画に乗っかっているものなので、それは進んでいるという解釈論を出したので、議論が上下してしまった。

藤波:余計わからなくなった。

工藤:それは計画があっても、新設は新設ですよね。

工藤(拓):かなり、議論的な部分というか、解釈論であるとか、時点時点の様々な対米関係も含めて、様々な異論が出てきたときの、いろんな意味での官邸側からの一つのコメントとして、「あれ、なんだこれ」ってなったものですよね。(20分12秒)

工藤:そうすると余計わからなくなりますね。

工藤(拓):先ほどのご意見の中で、原発の水準イメージは、って話は、それはもしかしたらそうなのかもしれないけど、実は裏側で、それを実現するためには何が必要なんですか、そちらのほうがあまりクリアになっていない。だから、確かに再エネやりますとか、コージェネを中心とした火力を増やします。こちらも実現しないと、原子力のこちらのほうの実現も難しくなる。という、その議論には実はなっていないんです。

 ですから、原子力の数字うんぬんという、まさに今から40年で全て止まったならば、2030年超えくらいでだいたいなくなります、フェードアウトですね、というその一つの数字の方向性が見えたとしても、それを実現するために他のことを実現しなくてはならない。そこのところの全体像というところは必ずしも示されていない。


   

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