統治システムの問題点から見る日本の政治

成田憲彦氏(駿河台大学教授) 工藤:成田さん、こんにちは。

成田:こんにちは。よろしくお願い致します。


試行錯誤するも元のモデルに戻った統治手法

工藤:私たちは民主主義という問題に非常にこだわっています。やはり民主主義というのは有権者が代表を選び、選ばれた政治家が有権者の代表として仕事をする。そして、その仕事をした結果、有権者が次の選挙でそれを評価する。そういうサイクルが回るということだと思っているのですが、何かここのところが危うい感じがしています。

仕事をしっかりとするという点で、民主党政権は、政治主導と官邸機能の強化ということがあったのですが、なかなかうまくいきませんでした。ただ、自民党時代もうまくいったかというと、うまくいっているわけではなかった。

成田:民主党は従来ばらばらであったので、結束を図るために、公認申請書に党の方針に従うという誓約書をとりました。

工藤:それは当たり前のことだと思いませんか。

成田:それは民主党もいろいろ試行錯誤をしてきたけど、まだできていない。

工藤:結果として戻った感じがしますね。自民党モデルに。

成田:その原因は色々あります。民主党については、野党からいきなり与党になって、やはり経験が全くない。単に民主党の政党がないだけではなく、2005年の総選挙で120人に達していないような議員だったのが、2009年にいきなり308人になった。政治自体が初めてという人がいっぱい入っているわけです。それで、自民党型の非常に党が強い、与党の事前審査をするような自民党政調主導型、部会主導型のモデルではないモデルを目指そうしたのですが、新しい政党モデルが作られないままにきてしまった。

私は、その辺は経験と思考錯誤を積み重ねていって作るしかないと思っていますので、この民主党政権の3年余り、あまり褒められないかもしれないけれども、そこは長い間政権交代がなされてこなかったことのつけで、自民党に対抗するもう1つの政党の成長を少し待つ、気長に待つしかないのではないかと思っています。

 

整理できなかった組織体制と意思決定プロセス

工藤:官邸の機能の問題はもっと複雑になってしまい、いろいろな。

成田:日本でいう官邸は意思決定の組織ではない。だから、その中で組織ユニットとして、きちっと設計がなされていない。だから、官邸はどうだって言われることに非常に違和感があるわけです。それから官邸というのは総理大臣と官房長官という2人の大臣がいるわけです。そして総理と官房長官の2人とも帰らないと官邸の門は閉めません。そうすると、官邸の主は官房長官なのか、総理なのかわからない。現在のように2人の上下関係が非常に明確になっていれば良いのだけれども、対立する可能性もあるわけです。官邸の意思決定がどのようになされるのか、ということは決められていない。

それからもう1つ、仮に官邸というものを総理と同義にすれば、それを支えるものは内閣官房と内閣府の2つある。さらに、民主党は国家戦略室というものを作ろうとした、それから国家戦略会議というものを置いています。また、内閣官房の長は官房長官で、下に官房副長官がいる。それから、その下に副長官補というラインがいるのだけれども、安倍内閣以降、国会議員がなる総理補佐官という形をつくった。しかし、総理補佐官と官房長官と副長官の関係はどうかとか、そういうところが非常に整理されないまま。それから、内閣府の方は、いっぱい特命担当大臣がいて、事務次官は1人しかいないわけです。そうすると、特命担当大臣からは、事務次官が俺の面倒を見てくれないと、不満が出てくるわけですよ。だから、官邸というのはそもそも組織ユニットではないが、官邸の意思決定ということはいわれる。さらに内閣官房があって、内閣官房は建物の中に入っています。内閣府の中にも内閣官房があります。

工藤:民主党政権は、なぜしっかりと糸をほぐして直せなかったのでしょうか。もっと混乱してしまいましたよね。

成田:この混乱は、もともとは橋本内閣で内閣官房のほかに内閣府というものをつくったということが1つの混乱の原因です。さらに安倍内閣の総理である安倍さんは、主任の大臣の経験がなくて、官房長官しか国務大臣の経験がなく、自分のカウンターパートがアメリカのホワイトハウスだということで、大統領モデルの総理補佐官を置いた。ということで、非常に複雑な仕組みなってきていた。さらに、民主党の時に、本当は整理すればよかったのですが、日本の制度的な枠組みとして、行政機関法定主義というものがあり、行政機関は法律で定めるとされています。だから、大臣を1人増やすのにも、それから内閣官房、内閣府を改正するのにも、法律の改正が必要です。特に内閣府が内閣府設置法でものすごく細かく書いてありますから、内閣府の仕組みを変えるためには内閣府設置法を変えなくてはいけない。

しかし、これは世界標準ではありません。内閣府の中を少し変えて国家戦略局を置く、そういうことも全部、法律でやらないといけない。なおかつ、今はねじれ国会なので、法律も通らない。民主党は戦略局を置くということを掲げていましたが、ぐずぐずしている間に、ねじれ国会になって、法律も通らなくなって、それで最後まで国家戦略局もできなくなった。

 

イギリスから見るマニフェスト型政治

工藤:僕たちは、マニフェスト型政治を国民に向かい合う政治のサイクルだと思っているのですが、成田さんはどう思っていますか。

成田:マニフェストについては、もうちょっと議論を深めるべきであって、マニフェスト政治の深化ということをやるべきだと思っています。ただし、これについては、マニフェストを掲げて戦う政党の側の仕事ではなくて、むしろ周りの研究者だとか、言論NPOだとか、そういう方が育てていく、発信していく問題だと思います。

イギリスでは、マニフェストというのは、国民との約束です。だから、マニフェストが守られているとか、守られていないとか、ということを判断する権限は国民にしかないという発想なんですね。ですから、議会の中で野党が、与党がマニフェストを実現するのに抵抗するということは、イギリスではありえないことです。イギリスでは、逆にソールズベリー・ドクトリンだとか、キャリントリン・ドクトリンというものがありまして、与党がマニフェストに掲げたことについては誠実に協力(橋梁)するというのはイギリスのやり方なんですね。日本ではねじれ国会を使って、野党が、民主党のマニフェストの実現に抵抗して、それでマニフェスト総崩れというのを野党が作り出すという、非常におかしな現象が起きてしまう。マニフェストというのはそういうものではないと、国民との約束であって、それで政権をとった党が、ある党が政権をとったら、他の野党もそれに協力しないとダメだと、ということはやはり周りの有識者がいう必要があります。

それからもう1つは、4年間の工程表といっても、4年間それだけで政治をやられたら、途中に大震災もあれば、色んな問題があるし、EUの財政・経済危機もあるし、同じことを4年間やっていられないわけですよ。イギリスなどでは、マニフェストがどのように考えられているかというと、マニフェストに掲げて、それで政権をとった場合には、書かれている事項に関してやる権限を与えられた。しかし、書いていない事項に新たに対応しなければならなくなった場合には、十分な説明を要すると。それから、一番多いのは増税ですが、まさに野田政権の消費税はそうなんだけども、こういったものについては謝罪をして、十分に説明をして、それで実現をする、というのがイギリスの考え方です。

工藤:僕は気になっているのが、マニフェストを作るという政党のガバナンスは機能しているのかと。数日で作ったり、なんかの形で付け焼刃で決めてしまったり、それを出してきて、国民に信を問うと言われてもですね、はっきりいって、それはやめてほしいと思う場合もありえるんですね。ただ、党内で作ったものに関して党内で離反があって、党内で合意ができないというのはよくないではないですか。

成田:民主党の2009年マニフェストが十分実行されなかったということは、政策決定過程に問題があったということですね。当時の一部の有力者の鶴の一声で数値が変わってしまったということもあります。それともう一つはマニフェストの作り方は、国によって色々タイプが違いまして、イギリスは主として党首主導型です。ドイツは下からの積み上げ型です。イギリスの場合は、日本ほどではないですが、比較的公示よりも前に出します。ドイツは下からの積み上げですから、第一次案、第二次案というものをやって、最終案をつくるということをやっています。

工藤:かなり前にわかるわけですか。

成田:わかります。それで国民の意見を聞いて、第二次バージョンをつくるわけです。 工藤:それは良いですね。

成田:ただ、日本でそれをやらないのは、日本は必ず相手の出したものをパクると。

工藤:だから、それはやはりおかしい。

成田:非常によくない。これは逆に言えば、政党制がきちっとできていないということです。だから、パクられない...今度の安倍さんの国防軍をつくるという案は、民主党はパクリませんから。逆に民主党のものは安倍さんパクらないでしょうから。やはり1つは、どういう政党を持つかということと、非常に関連しているんですね。お互いにパクリ合うようであれば、どっちを選んでも良いって話になるわけですから。

工藤:だから、僕がイギリスの人と話したのは、やはり2、3年かけますよね。党首選をその中でやり、党内で議論し、まとまったらそれに向けてどう実行するか、みんなで考えていくと。というようなサイクルになるよう政党政治を実現しないとマニフェスト政治も動かない感じがします。

成田:そうなんです。サッチャーさんの回顧録に面白い記述がありまして、総選挙があって、2年半ぐらいたつと緩んでくるというんですよ。なぜかというと、だいたい2年半でマニフェストに書いていることは各大臣がやってしまって、それでやることがなくなって、緩んでくるという。 逆に言えば、マニフェスト運営の基礎にマニフェストがなっているということですね。

 

民主党は2009年マニフェストの総括を

工藤:いま成田さんも仰っているような認識を日本の政治家はもっていますかね。つまり、国民に向かい合うためのしっかりとした政治の仕組み、約束ということを作成するために政党のガバナンスをきちっとやるというふうに、そもそも日本の政党がなっていないのではないかという気がするんですがどうでしょう。

成田:問題意識はみんな持っていると思いますよ。ただ、非常に難しい問題であるし、現実的な選挙への対応だとか、現実的な政治の対応に追われて、なかなか腰を落ち着けて考える時間がないと。いま選挙が迫っていますから、それだけの余裕はありませんが総選挙が終わったら、そういう問題を提起して。

工藤:提起して、議論を始めないといけないわけですね。

成田:それは言論NPOが、○×△だけではなくて、何%だけではなくて、その仕組みとか意味とか決定プロセスの問題とかいうことをきちっと検証する。それから民主党も今度の選挙で勝っても負けても、民主党政権3年の総括、あわせて2009年マニフェストの総括を、○×△ではなくて、その決定のプロセスと実施するプロセスのどこの部分で、実施ができなかったのかという分析を民主党はきちっと出すということが必要だと思いますね。

工藤:はい、どうもありがとうございました。

成田:どうも失礼いたしました。

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