政治の仕組みの問題点を認識し、どのように変えていくのか
岩井奉信氏(日本大学法学部教授)
工藤:岩井さん、どうもこんにちは。まず政治と金の問題を民主党政権はかなり重視していました。まず、その業績評価ということから始めたいのですが、見ているとあまり取り組んでいないように見えるのですが、どうでしょうか。
岩井:そうですね。政治資金規正法の改正は一回もやられていません。意気込みはそれなりにあったのですが、全く手がついていないと言ってもいいですね。
工藤:今井さんがおっしゃったのは、政治家とお金の問題のことですよね。
岩井:「政治とお金」の問題というのは色々と事件が起こる事例を見て頂くとわかるのですが、「政治家とお金」の問題なのですね。ですから、本質のところは、政治家がお金に触るというか、使うということにそもそも問題があるのではないかと思います。
事実上認められている企業団体献金のからくり
工藤::つまり、今までの政治改革の問題というのは、政党として例えば選挙をやるとか、そうゆう形にして、政治家があまりお金を使わないような構造にしたいというところからきていました。民主党はクリーンな政治を目指したいとやっていましたが、これは日本政治全体の問題にもなっていると思います。どうしてこれは動きにならないのですかね。
岩井:本来であれば、94年の政治改革というものが政党本位にしようと、政治資金について政党本位の形にしようにしようとしたのですね。ただ、政党が政治家の政治活動資金を全部賄えるのかというと賄え切れないということがあって、結局、政治家の後援会などにおんぶにだっこして当選者を確保するという実態があった。その結果、政治家がたくさんお金を集めてきたり、あるいは、それを勝手に使ったりするということを認め得ざるをえないということになった。実際、制度もそうなっているわけです。例えば、政治家個人が企業献金を受け取ることは、今は事実上、禁止されています。しかし、政党支部という形で、企業団体献金は受け取れる。この政党支部というのは政党支部ではなくて、政治家の団体の一部という位置づけになってしまっている。これは、政治家が企業団体献金を事実上受け取る抜け道になってしまっている。そして、これを実際に政党が認めてしまっている、追認してしまっているところに大きな問題があるのだと思いますね。
工藤:次に、政党そのものも、政党助成金をもらって、国民が政党を支える構造になっている割には、全くそうゆう問題を解決しないということは、政党そのものも良くないと思うのですが、どうでしょうか。
岩井:そうですね、政党助成金は、国民一人あたり250円、合計で319億円を拠出しているわけですが、この額は世界で一番多い。ですから、如何に大きなお金で日本の政党が動いているのかということですが、それでも足りないという認識があります。ということは、政治活動そのもの、日本の政治の活動にどこか大きな無駄があるのではないかという感じが否めませんよね。
コストの面から政治活動を見直す契機に
工藤:つまり、その問題を絶たないと、政治にはお金が必要だという問題を変えない限りダメだという問題ですね。
岩井:そうですね。当然のように民主主義を維持していくためには、一定のお金が必要だということは認めざるを得ないと思いますね。それでは、どれが必要で、どれが必要じゃないかというバランスシートは実ははっきりしていないところがあります。例えば、典型的にいえば、政治家が料亭でご飯を食べる。これも政治活動だということで、政治資金の中に組み込まれ、報告書の中に出てきます。こういったものまで、政治活動として認めていいのか。そういった無駄が相当あるのではないかと思います。そうゆうところを抜本的に見直す必要がある。
政治とお金の問題というと、政治資金の問題、あるいは政治献金の問題と捉えられがちなのですが、そろそろ政治にかかるコストの問題というふうに考えるべきではないかと思います。実際に日本の国会議員を見ていると、待遇は世界で一番いいのですね。非常に高い給料をもらっている。ときどきやり玉にあがる、領収書のいらない、文書通信交通費というものが1200万円もある。政党助成金まで含めると、全体として国会議員一人あたり、1億円ぐらいのお金が直接経費として掛かっているわけですね。それに加えて、政治献金もある。そうなってくると、無駄にたくさんお金が使われているのでないかと思えてしまう。適正な額というのは一体いくらなのか、ということをコストという概念でもう一度見直す必要があるのではないかと思いますね。
工藤:この前の民主党のマニフェスト、つまり2009年ですね。企業団体献金を禁止する、世襲を禁止する、そして、国会議員の定数を削減するという問題が提起されていました。その間に、小沢さん、鳩山さんなど、色んなマイナスの出来事が起こりました。これは実現したのでしょうか。
岩井:企業団体献金の禁止というのは法律的には実現していません。だから、民主党としては、それを言った手前、党本部として、企業団体献金は受け取っていないのですね。 一方で、個々の政治家がお持ちなっている党支部のレベルでは、企業団体献金は受け取っている。やはり、民主党も格好良いこと言ってみたけど、個々の政治家からすると、自分たちの政治資金の中に、企業団体献金のウェイトがそれなりにある。個々の議員さんの現場からこれはムリだということ声が非常に聞かれますよね。
工藤:ただ、民主党はこの前の選挙でクリーンな政治を目指すということで、「政治と金」をキャッチフレーズというか、自分のブランディング価値を高めるために、非常に熱心にやっていましたよね。
岩井:やはり、自民党というと、政治と金の問題が常に付きまとったというイメージがあります。しかし、実際に民主党政権になってみると、小沢さんの問題をはじめとして、政治と金の問題が次々と出てきた。「なんだ民主党、お前もか」と。クリーンと言っておきながら、実際はそうではなかった。同じ穴のムジナというイメージがついてしまった。これは非常にマイナスだと思いますね。
国会の怠慢で、選挙無効の判決が出る可能性も
工藤:もう1つの国会議員の定数の削減なのですが、結局、違憲状態という状況の中で、最後に駆け込みで0増5減という形になったのですが、この違憲の状態という問題に対する取り組みと、定数を削減するという問題。これは民主党だけとは言えないのですが、日本の政治家があまりにも不熱心のような気がします。この点についてはどうでしょうか。
岩井:そうですね、国会議員の数が多いのか、少ないのか、これはまた違う議論があると思います。民主党は比例代表の定数280を100に減らすと言いました。しかし、中小の政党はこれに対しては、反対という立場です。特にねじれ国会になって、これが頓挫してしまったというところがあります。そこで、改めて民主党が定数を40削減し、選挙制度を少し変えて、連用制という複雑な選挙制度を入れてきた。これを前の国会で提出し、先の臨時国会でも提出していました。そういった面では、定数削減というものについて、民主党はやる気はそれなりに見せたというところはあるだろうと思います。現実問題として、野党側がこれに賛成をしないということで、実現はしませんでした。 違憲の問題というのは、前回の判決では、2009年の選挙は違憲だという判決の他に、実は今の選挙制度の仕組みについても言及されています。つまり、300の小選挙区に対して、まず各都道府県に1議席ずつ配分する。残りの253議席を比例配分しているというのが今の定数配分の仕組みです。これ自体もおかしいということで完全比例配分にしろというのがこの前の判決の趣旨でした。 しかし、今回0増5減の法案が可決されましたが、実はこの判決趣旨に沿っているわけではなくて、2倍以内という一票の格差をぎりぎりクリアしたというのがこの0増5減の法案です。だから、基本的には制度をきちっと変える、いわば最高裁が求めたものを実現しているわけではないということになります。
工藤:しかも、その今の提案が出てきたのは、解散を決断して、駆け込み的に成立したのですよね。駆け逃げなのかわからないのですが、どちらにせよ最後でしたよね。
岩井:そうです。今回の選挙は違憲状態のままで選挙をやることになります。本当であれば、既に違憲というふうに出されていて、少し猶予を与えましょうというのが、この前の判決でした。すると、今回の選挙は違憲のままやるわけですから、完全な違憲判決、即ち選挙が無効だという判決が出ても、本当はおかしくないのだろうと思いますね。
政治に対する信頼回復に向けて、どのような解決方法を示せるか
工藤:今の岩井さんの話を受けて、まさにここからが重要なのですが、今後の選挙で「政治とお金」、そして、選挙に関わる問題で、政党や政治家は国民に何を伝えないといけないのでしょうか。
岩井:政治不信の最大の問題が、政治の金の問題だと言われています。そうなると、政治家が襟を正し、制度を抜本的に変えていくという姿勢を党なり、政治家なりという人たちが示せるのか。確かに、こういったご時世で各党とも台所事情が厳しいでしょうから、政治改革や政治資金の改革をやると藪蛇になるのではないかと、非常に後ろ向きです。しかし、実際問題として、政治と金をめぐる問題やスキャンダルは、あとを絶たない。では、これに対して、どうきちんと対応していくのか、政治に対する信頼というものをどうやって回復し、どういった解決方法を示せるのか。そういったことを我々は求めていくし、それを示してほしいと思います。
工藤:今度は、マニフェストにそういう形が出ない感じがしています。また、選挙制度の問題についても、各政党なり、政治家は国民に語れないといけないわけですよね。
岩井:そうですね、選挙制度については野党などが選挙制度を見直すということをいっているようなのですが、見直すというのはいったい何なのか。現行の選挙制度の中で、最高裁が求めたような見直しをするのか、それとも抜本的にというとおかしいですが、一部には以前の中選挙区制に戻そうというような声もある。しかし、これは全然選挙の概念が違います。だから、どういったことをしようとしているのか、どういった制度にしようとしているのか、ということはきちんと示さなければならないと思いますね。
工藤:その中では制度の問題、中選挙区制、小選挙区制というところに行く以前の段階で、最高裁の判決に対して、どう自分で考えるのか。あるいは、以前、岩井さんが言われているように、「21増21減」。
岩井:最高裁が求めているのは、当然格差2倍以内ということで、そしてまた、各県に1議席を基礎配分するということをやめなさいということです。これを最高裁の言うとおり、きちんとやるとなると、「21増21減」ということになるのではないかと言われています。すなわち、両方合わせて、42の県などが、定数が変わってくるということになります。これはもう全面的な見直しということになります。本来は、法律によって自動的に決まるはずだったのですが、こうした制度についての見直しも、きちんと考える。特に基礎配分1というのも変えるとなると、制度を変えなくてはいけませんから、きちんと対応する。実は、そんなに難しい話ではないはずなのですが、政治家の方々は、今の選挙区割りだとか議席配分だとかを変えられたくない、という非常に保守的な感じで、何とか自分さえ生き残れればというところがどこかにあるのではないか。こういった自己保身みたいなところが、選挙区割りの改定にしろ、定数の是正にしろ、なかなか実現できない背景にあるのかなと思います。
第三者機関に政治改革を任せることができるか
工藤:これはどうすればいいですかね。政治家は、仰ったように、民主主義という観点から見れば、システムを変えないといけない。しかし、政治家がそれをできるのかという問題もあります。選挙において、有権者はこのことをどう考えればいいのでしょうか。
岩井:これはなかなか難しいですが、やはり政治を変えていく、特に今回の選挙の中で統治機構を変えたいという意見が結構ありますよね。その中に、当然この政治の仕組み、特に選挙の仕組みというのが入ってくるはずです。そうなると、望ましい政治家のありようというのが何なのか、どういう代表を出すやり方がいいのか、といった段取りというのは当然考え方としてはあります。これらについて、やはり筋道を立てて説明できるようでなければいけないのだろうと思います。
また、衆議院のほうも違憲、実は参議院も違憲で、特に参議院のほうについては、制度を抜本的に変えろというようなことが出されています。そうなると衆参をまたぎ、衆参共に制度を変えなくてはいけない。つまり、衆議院だけの制度改革、参議院だけの制度改革となると、ご都合主義の改革になってしまいます。今回の国会など見ていても、ねじれで大変なことになっているということを考えると、衆参共に全体として、どういう院の在り方が良いのか、ということを考えながら、選挙制度を考えていくということも必要なのではないかなという感じがしています。
だから、単に定数是正さえすれば良いという問題ではなくて、そういうことを全体として考える。これは政治家がやると自分の都合の良いようなことをやるものですから、場合によっては政党や政治家にとってはマイナスなことが出るかもしれない、それでもかまわないという形で第三者機関に任せられるのか、これを示せるのかというのが1つのポイントだと思いますね。
工藤:となると、今まで民主党のマニフェストだけでいうと、今までのアジェンダは、企業団体献金を廃止する、世襲を禁止する、そして国会議員の定数を削減するというアジェンダではダメなわけですね。
岩井:それだけはだめです。耳さわりの良いことだけど、それは本当にできるのかというところはあります。また、それだけではなくて、民主党政権の3年間、特にねじれ以降、日本の政治の仕組みに色々な問題があるのだということが明らかになった。こういうところを含めて、やはり変えていかなければいけない、ということをまず政党が認識する。そして、どういうふうに変えたいのか、なぜそこを変えるのか、ということをきちんと有権者に説明できないといけないだろうと思いますね。
工藤:岩井さんありがとうございました。