マニフェストのポイント
①社会保険としての受益と負担をバランスさせる
②受益(給付)と負担(保険料)の明確化
③高齢者向け給付の適正化(医療費自己負担割合の一律化など)
④公的年金制度の積立方式への移行
⑤公的年金制度での世代別勘定区分の設置
⑥税金投入の低所得者層の負担軽減・最低生活保障への限定
⑦最低生活保障の考え方の導入
⑧歳入庁の創設
⑨年金目的特別相続税の創設
日本維新の会の「骨太2013-2016」の形式的な特徴は、第1に、理念の提示が主体であり政権担当期間内に実現し得るような具体的な政策の提示ではないこと、第2に、個々の政策は、技術的であるうえ、「政策実例」あるいは「例」と断られているようにあくまで例示でしかない模様であり、マニフェスト(政権公約)といえるのかそもそも疑問が残ることである。
もっとも、「骨太2013-2016」は、現行の社会保障制度、および、それを主に運営している政府に対する強い問題提起となっている。これは、民主、自民、公明をはじめ既存政党と明確な一線が画されている点である。現行の社会保障制度には、2つの行き詰まりを指摘することができる。
第1に、受益と負担がバランスしていないことである。現行の社会保障制度は、受益と負担の対応を旨とする社会保険方式を標榜しつつも、多額の公費が投入され、かつ、社会保険料による世代内および世代間で再分配が行われることで、受益と負担の対応関係が崩れている。本来、社会保障給付の「価格」であるはずの社会保険料は、価格としての機能を果たしていないし、「公費」は適切に税でファイナンスされず、結局、それが政府債務累増の主たる原因となっている。
第2に、世代間格差拡大の放置である。例えば、現在、年金財政において、マクロ経済スライドが全く機能しておらず、将来世代に負担先送りをしているにもかかわらず、民主党のみならず、導入時の与党であった自民党も公明党もそうした事態を直視しようとしていない。政府は、制度の運営者であるはずにもかかわらず、制度をガバナンスできていない。
こうした現行制度の行き詰まりに対して、日本維新の会の「骨太2013-2016」は、まず、「社会保険としての受益と負担をバランスさせる」といった考え方を提示している。社会保険料において受益と負担をバランスさせた上で、税金投入(公費という言葉は使っていない)は「低所得者層の負担軽減・最低生活保障へ限定」することとなる。こうした政策は、社会保険料と税を本来的な役割に回帰させるものである。
次いで、「骨太2013-2016」は、公的年金制度の積立方式を提示している。一般に積立方式の含意は主に2つに整理され、1つは、高齢化が進行するもとで世代間の公平を確保するための世代間の(若い世代から高齢世代への一方的な)所得移転の排除であり、もう1つは政府の裁量の排除である。「積立方式」というと、年金を巡る議論のなかでも論争的であり、非現実的と片付けられることも少なくない。しかし、マクロ経済スライド不発動が放置され続けている現状などを考えると、積立方式に込められた上記の含意は何れも健全な問題提起として積極的に評価できるだろう。
加えて、「骨太2013-2016」は、他党の低年金者への加算に象徴されるように政府が国民に何かを与えるというのではなく、国民1人ひとりが負担水準やサービス提供水準を意思決定できるような意思決定システムのインフラを整える、後は、国民で決めて下さいといった志向が見てとれる。これも、他党にはあまり見られない特徴である。
このように、「骨太2013-2016」は、強い問題提起としては積極的に評価できるものの、そもそもマニフェストとは、政権をとった際の国民との約束であるという原点に立ち返れば、「骨太2013-2016」をマニフェストとして評価することはできない。
特に、「政策実例」、「例」といった表記は問題視せざるを得ないし、本来、テクニカルな政策項目の羅列ではなく、そうした政策項目が提示されるに至った背景などが丁寧に説明されるべきである。よって、問題提起して評価し得るとしても、マニフェストとしては低い評価とならざるを得ない。 |