2012年衆議院選挙 マニフェスト評価(自民党・社会保障)

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■形式要件についての評価(15点/40点)  

マニフェストのポイント
①みんなが安心できる持続可能な社会保障制度に向け、「自助」・「自立」を第一に、「共助」と「公助」を組み合わせ、弱い立場の人にはしっかり援助の手を差し伸べる。
②社会保障は、社会保険制度を基本とする。消費税は全額、社会保障に使う。
③税や社会保険料を負担する国民の立場に立って、生活保護法を抜本改正して不正なバラマキを阻止し、公平な制度をつくる。

 自民党のマニフェストは、理念中心であり具体的な政策が殆ど盛り込まれていないこと、マニフェスト単体では趣旨がつかみにくい部分があることの2点が特徴である。
 まず、自民党の理念は、「社会保険制度を基本とする」という文言に表れている。一般に社会保障は、拠出制と無拠出制とに分類される。拠出制とは、わが国の公的年金に代表されるように、保険料を支払うことでその対価としてはじめて給付が受けられる仕組みである。社会保険方式とも言い換えられる。
 対して、無拠出制とは、生活保護に代表されるように、拠出はなくとも、所得テストなどを経て給付が行われる仕組みである。年金の税方式も無拠出制に分類して捉えられることが多い。
このような拠出制と無拠出制とを比較すると、拠出制あるいは社会保険方式は、努力して保険料を支払ったものが報われるという考え方を内包しており、健全性をみてとることができ、理念としては美しいといえる。こうした理念を掲げていることはプラスに評価できる。
 但し、では、こうした理念が実際の制度で機能しているかといえば、一向に下げ止まらない国民年金保険料の納付率低下に象徴されるように、決してそうではなく、理念を機能させるための政策が伴っていない自民党マニフェストは、理念の掲揚にとどまっているといわざるを得ない。この点、マイナスの評価である。社会保険は、保険料を支払わなければ給付が受けられないという仕組みである以上、完全雇用、労働市場の公平性(男女間格差や正規と非正規間の格差などがない)などが前提となっており、それらの政策とセットで理念が掲げられなければならない。
 加えて、自民党マニフェストは、単体では趣旨がつかみにくい部分がある。例えば、次の文章がある。「これらの考え方により、自民党主導のもとで取りまとめられた社会保障制度改革推進法に基づき、高齢化の進展の中で持続可能な社会保障制度を確立するために必要な法案を国会に提出します」
 ここでいう必要な法案のなかみを知るために、国民は、社会保障制度改革推進法を別途参照しなければならない。国民に分かりやすく、党の政策をうったえているとは必ずしも言えず、マイナスの評価とせざるを得ない。
 増大する社会保障費への対策として直接的に言及しているわけではないが、「療養の範囲の適正化」、「真に必要な医療の提供」など、医療分野における課題については、認識していることを示唆している。
 また、医療分野については、医師などの人材確保、あるいは、適正な配置を図り、地域で必要な医療を確保すると書かれており、形式的には評価できる。但し、達成時期や工程や政策手段は具体的に描かれてはいない。

 

 

■実質要件についての評価(14点/30点)

 では、マニフェスト提示されている政策は、社会保障制度が抱える課題を捉えた上で、適切な解を国民に示しているだろうか。60点の配点を、高齢化対応30点、制度の現代化30点とする。いかなる社会保障制度を構築しようと、高齢化が進むなかで持続可能であることが大前提である。
 高齢化対応に関し、マニフェストに具体的な記述は見当たらない。とりわけ、自らの政権下で導入したマクロ経済スライド(民主党の評価参照)がいまだ不発動であることに対し、問題意識を持っている様子がうかがえないことは問題である。マニフェストの「続可能な年金制度とするために自民党が与党時代に断行した改革に基づく現行制度を基本に」という記述が、それを指しているのかもしれないが、これだけは分からない。デフレ下におけるマクロ経済スライド発動は、政権を担えば、不可避の課題であり、マニフェストを通じ事前に国民に説明しておかなければ、スムーズに実現に結びつけることが難しいはずである。よって、高齢化対応に関し、配点は難しい。
 制度の現代化に関し、医療、介護、年金、少子化・若者対策その他の順にみていこう。まず、医療に関し、医療資源の適正配置、地域での医師確保、予防医療総合プログラム策定、医療保険制度における財政基盤安定化、保険料負担の公平の確保、最先端医療品・医療機器などの迅速な導入など、掲げられている政策は何れも妥当なものと評価される。もっとも、問題は、財源と実現に向けた工程である。
 とりわけ工程に関する説明が求められるであろう。わが国の医療提供者は、民間が主体である。他方、政府の政策手段としては、現在、診療報酬改定、都道府県における医療計画策定義務などを盛り込んだ医療法改正などの法改正、および、補助金などに限られる。そうした手段のみで、これまでも指摘されてきたような医療資源の診療科間・地域間の偏在が解消され、医療資源の適正配置が実現するのかどうかは定かではない。政策手段についての一段の説明が求められる。
 次に、介護である。介護は、財政的な危機に強い問題意識をみせつつ、簡素な記述にとどまっている。そのなかで、「公費負担の引き上げ等により、保険料負担の増大を抑制しつつ」という点に関し、さらに説明が必要と考えられる。1つは、「公費」の原資である。公費とは、他の歳出削減か税でしかない。特定が必要であろう。もう1つは、公費を引き上げて保険料負担を抑制することと、自民党の理念との整合性である。介護保険には、既に財源の約半分の公費が入っており、さらに公費を入れることは、社会保険としての特徴が低下することともなるためである。
 さらに、年金である。年金も簡素な記述にとどまっている。年金制度には、マクロ経済スライドが機能していないといった財政上の問題のほか、構造としても、様々な課題を抱えている。第3号被保険者の仕組みがもはや今日の就労・家族形態に合致していないとの指摘、非正規雇用者が厚生年金に加入できず国民年金への加入を余儀なくされているといった問題などは放置できず、これらに対し、では、自民党はどのように対処していこうとしているのか、マニフェストに記載が見られない分、追加的な説明が必要であろう。
 最後に、少子化・若者対策である。ここでの待機児童解消などは、社会保障・税一体改革最大の成果といえる子ども・子育て分野を3党合意で成立させていることから、具体的な姿を持って受け止めることができる。政策としての妥当性、具体性もあり、プラスの評価ができる。また、年少扶養控除の復活も、方向性としては妥当である。年少扶養控除廃止を財源の一部として誕生した「子ども手当」は廃止され児童手当に戻った訳であり、とすれば、年少扶養控除を復活させるのが当然であろう。ただし、厳しい財政状況のなか実現可能性が検証されるべきである。
 増大する社会保障費への対策として、「療養の範囲の適正化」との文言で混合診療を暗示し、「真に必要な医療の提供」という文言で「軽度の病気に対する医療費の免責」のことを示唆しているものと推測され、課題の認識があることは把握できる。ただそれが明確に打ち出されたわけではない。

 一方で、医師の適正配置、地域で必要となる医療の確保についての、課題認識は妥当である。しかし、どのような方法で医師の偏在を解消するのか、どこに偏在にあるのか、その中身はわからず、医師数増についても、その方法が説明されているわけではない。

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