2012年衆議院選挙 マニフェスト評価(自民党・経済政策)

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■形式要件についての評価(18点/40点)  

 自民党マニフェストにおいては、「経済を取り戻す」とのメッセージの下、危機的状況にある経済の再生に取り組むことを強調している。「失われた国民所得50兆円を取り戻す」ことを目標に、「縮小均衡の分配政策」から「成長による富の創出」へ経済政策の転換を図ることを政権の目的として明確に打ち出している。
 具体的な目標としては、「デフレ・円高からの脱却を最優先に」、「名目3%以上の経済成長を達成する」としている。わが国経済に対する基本認識とともに、明確な理念や目的が示されている点は高く評価される。
 他方で、具体的な目標設定については、名目経済成長率が示されているものの、実質経済成長率の目標はない。また、政策手段としては、「明確な物価目標(2%)を設定、その達成に向け日銀法の改正も視野に入れ、大幅な金融緩和を行う」として、物価上昇に基づくデフレ脱却を強調しているが、目指すべき実質成長率が描かれないため、現在の潜在成長率が1%台ということを考えると、経済成長を上回る物価上昇、つまり悪いインフレを期待しているとみなされる可能性もある。
 また実質経済の成長率を高める政策として、「大胆な規制緩和」や「産業再生」や「国際展開」を掲げ、サプライサイドの対策を重点化しており、その方向もわかり易いが、その数値目標の設定はほとんどなく、目標達成時期などの明示がない。目標達成のための行程も「5年間の集中改革で(中略)産業投資立国を進める」「今後2~3年は(中略)より弾力的な経済財政運営を推進する」などの記述が見られるものの、その手順や全体像が明らかになっているわけではない。
 また円高対策として、「財務省、日銀、民間が参加する官民協調外債ファンドを創設」など新たな為替介入策とみられる政策も提起しているが、その内容がこれだけだと判断できない。また公共事業の拡大を意図する「国土強靭化計画」は、経済対策の中では説明されておらず、経済政策の整合性としてわかりにくい点もある。
 「新政権発足直後に、第一弾緊急経済対策を断行」「産業競争力会議や国際経済戦略会議の設置」「大胆な規制緩和を行うための国際先端テストの導入」「日本再生・産業競争力強化法の制定」など具体的に踏み込んだ政策が列挙されていることは評価できる。ただし、法人税率の引き下げは、数値目標、達成時期ともに明示されていない。

 

 

■実質要件についての評価(32点/30点)

 自民党マニフェストにおいては、日本経済の現状認識を危機的状況にあると認識し、その原因を民主党政権による「縮小均衡の分配政策」にあることを示唆しており、こうした再分配政策から決別し、「成長による富の創出」が必要との課題認識は概ね妥当でだと判断する。これらは、自民党の目指すべき自助、自立の社会と連動しているが、格差の拡大に対してどのような認識を持ち、対策を考えているのかは示されておらず、バランスを欠く点は否めない。「デフレ・円高からの脱却を最優先する」との認識は妥当で、金融緩和や為替問題などそれに対応する政策が最上位に掲げられており、党総裁も意識的にその発言を繰り返しているが、日本経済の長期低迷の背景には、デフレ・円高のみならず、少子高齢化、人口減少などの構造問題があり、それをいかに跳ね返して成長するかという視点が弱い。
 日本は「産業投資立国」と「貿易立国」の双方を目指すべきであり、そのためには、製造業の国際競争力を復活させるビジネス基盤の強化が必要との認識も概ね妥当であるが、海外需要を取り組む対策はまだ具体的でなく、環太平洋経済連携協定(TPP)に対する書きぶりは、「聖域なき関税撤廃を前提とする限り、反対」と、党内支持基盤を反映してか極めて慎重である。
 金融政策について、「日銀法の改正も視野に入れた大胆な金融緩和」「2%の物価目標の設定」「政府と日銀のアコードの設定」など、大胆な政策を盛り込んでいる。党総裁の過度な発言に市場はこれを好感し、円安・株高が進んでいる。こうした発言はマーケットとのコミュニケーションを重視する対策としては一定程度評価できるが、デフレ・円高の原因が日銀の金融緩和の不足だけにあるのではなく、現在の大量な量的緩和が日銀の当座預金に積み上げになるだけで効果を上げていない現状を十分説明できないばかりか、日銀の独立性が脅かされる危険性が高い。
 例えば、日銀の判断という建前を取っていても、実質的に建設国債の日銀引き受けなどを強制するようなことになれば、インフレ高進、長期金利急騰など将来的に大きな副作用をもたらしかねず、後々の日本経済に大きな禍根を残すリスクを孕むものといえる。 
 他方で、経済政策の中には明記されていないものの、「防災対策」で、10年間で200兆円規模といわれる(数値はマニフェストに盛り込まれていない)「国土強靱化計画」が盛り込まれていることは、かつて来た公共事業による財政の大盤振る舞いの道に逆戻りするリスクが強い。これらの点を考慮すると、企業や産業競争力の強化を促進する重要な成長戦略が盛り込まれているとはいえ、財政金融政策への過度な依存という点で、課題解決の妥当性については相当割り引いて考えなければならない。
 政策実行体制の面では、「経済再生本部」を創設し、これを司令塔とすること、また、同本部の下に「産業競争力会議」を設置し、成長産業の育成に向けたターゲティング・ポリシーを実行すること、「日本経済再生・産業競争力強化法」を制定し、先端設備投資の促進、革新的研究開発への集中投資すること、「国際戦略会議」を設置し、成長するアジア経済圏の取り込みなどを展開するとしている。
 具体的な本部、会議の設置、法案制定を謳っていることは、政策推進体制やガバナンスの強化という意味で極めて重要である。とはいえ、民主党政権における推進体制と比べて、具体的にどこがどう強化されるのかは不透明である。また、これらが民間の知恵を活用し、省庁の縦割り体制に横串を指す「経済財政諮問会議」や「規制改革会議」に相当する組織体制となるのかどうかも不明である。

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