2012年衆議院選挙 マニフェスト評価(民主党・経済政策)

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■形式要件についての評価(16点/40点)  

 民主党マニフェストにおいては、「新しい競争力は、人と地域」とのキャッチフレーズの下、新産業の育成と雇用の創造を経済政策の柱に据えている。具体的には、「太陽光、風力などの再生可能エネルギー、医療・介護、農林水産業など、地域の仕事に結びつきやすい分野で新産業の発展を強力に後押しする」として、「2020年までに400万人以上が働ける場」をつくることを明示している。また、マクロ経済運営においては、「2014年度のデフレ脱却を目指す」として、「政府・日銀が一体となり最大限の努力を行う」他、「2013年冒頭に大規模な補正予算を編成する」と謳っている。中期的な経済成長率の目標として、「2020年までの平均で名目3%程度、実質2%程度の経済成長を実現する」との目標を掲げている。
 民主党の掲げる経済政策面での理念・ビジョンは、新産業を創造し雇用を生み出すという点では明確だが、本来新しい成長分野はそのターゲットを定めるだけではなく、民間経済が動き出すための規制や構造改革に取り組むことで生み出されるもの。その点で規制や労働市場など構造に迫ったものではなく、また製造業の国際競争力の低下や産業空洞化の危機にどう対応するのかといった問題意識も、必ずしも明確に示されていない。「人と地域が新しい競争力」というフレーズは、キャッチフレーズとしては響きがいいが、経済成長を生み出すための生産性を具体的に高める政策体系を提起しているわけではなく、力不足である。
 他方、目標設定面では、マクロの経済成長率(名目、実質)、2020年までの雇用目標(400万人以上)を、再生可能エネルギー(140万人以上)、医療・福祉(280万人以上)など主要分野についても明記している他、海外からの観光客目標(2016年までに1800万人)などの数値目標が掲げられている点は、決して十分とはいえないものの、自民党と比べると目標数の数は多い。達成時期については、「農林漁業を2015年までに3兆円産業に育成する」「2020年までに木材自給率50%」などとあるが、主力産業と位置付ける再生可能エネルギー産業や医療・介護産業について、雇用目標の達成時期が明記されていないなど統一性がない。工程の明示も不明確で、新しい産業をいかにして育成するのかについての政策手段も、税、予算、規制改革などについて、具体策が明示されているものは少ない。これは、総じて、現在の民主党政権でまとまった成長戦略である「日本再生戦略」の中から主要施策をピックアップしただけのものだからである。具体策は、補正予算や来年度予算に盛り込むということなのだろうが、それでは国民への説明として不十分である。

 

 

■実質要件についての評価(22点/30点)

 民主党のマニフェストは、日本経済や日本のグローバル製造業の厳しい現状に対する認識が十分に示されておらず、経済政策としては補正予算、金融政策、成長戦略について語っているのみである。抽出された課題は、「グリーン革命を進める」「医療・介護の研究開発体制を強化する」「農林漁業の6次産業化」「中小企業支援」「産官学連携による研究開発力強化」「アジア太平洋経済圏の実現」「デフレ脱却」などだが、それらをどのように実現するのか道筋が描かれているわけではない。2020年までの名目3%、実質2%の実現でもそれがどうしたら可能か、日本経済の体質強化のために金融や財政政策、構造政策をどう進めるのかを体系的に語っていない。
 原発ゼロ社会を目指す民主党政権が、日本の成長基盤としての安定的なエネルギーの供給をどう実現するのか説明する義務がある。また、再生可能エネルギーの導入を強力に進めるのは、政策の整合性の上では当然だが、エネルギー供給やこうした分野で新しい雇用や経済成長をどのような形で生み出していくのか、その具体的道筋はマニフェストでは見えない。
 「医療・介護分野を成長産業に育成する」ために、「再生医療への集中的な支援」、「創薬支援ネットワーク構築」「薬事法改正により医療機器の審査の迅速化・合理化を図る」「先端医療特区」「介護、生活支援ロボットの開発・支援」を列挙している点は、概ね妥当と言えるが、雇用創出の鍵として期待される「ヘルスケア産業」を育成するための具体策が見えない。混合診療解禁など医療分野の規制改革などに対する言及もない。「農業6次産業化」についても株式会社参入など規制改革の言及がなく、農業の産業競争力強化の視点に乏しい。
 TPP(環太平洋パートナーシップ)、日中韓FTA、東アジア地域包括的経済連携を同時並行的に進める」としている点は評価されるが、その際、「国益の確保を大前提とするとともに、日本の農業、食の安全、国民皆保険などは必ず守る」としており、腰が引けている自民党マニフェストとの違いは見出せない。
 防災対策でも「ハード整備に偏ることなく(中略)地域の防災力を強化する」としている点は、公共事業重視の自民との違いを意識しているが、実態的にどの程度違うのかは不明である。総じて課題解決の妥当性という意味では、短期的な景気回復よりも中長期的な成長戦略に焦点を当てており、またこれまでの分配政策偏重は修正されたが、人口減少が進む中でどのようにして日本経済の生産性を上げていくのかの答えは出し切れていない。
 政策実行体制、カバナンスについては、特段の記述がない。現行の国家戦略室・会議を中心とする仕組みに委ねるということと解釈するが、2009年マニフェストで謳った「国家戦略局」の創設は、実現のめどもなく強力な推進体制を欠くという点で不安が残る。成長戦略については、概ね経済産業省の知恵に委ねている部分が多く、他方で、財源面は財務省の強いガードが働いており、政治主導を標榜する民主党としては、強力な推進体制が敷かれているとはいえない。

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